P&Gに影響を与えたブランド育成法
今回ご紹介するのは『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』。同書は、P&Gなどの企業ブランディングに影響を与えた『How Brands Grow:What Marketers Don’t Know』の日本語訳です。
著者は南オーストラリア大学の教授、バイロン・シャープ氏。シャープ氏が所属する、同大学のアレンバーグ・バズ研究所は、コカ・コーラやクラフトといった世界中の企業がスポンサーに名乗りを上げ、その知見を利用する研究機関です。
同書の第1章には、現在のマーケティングに対する著者の問題意識が示されています。
マーケティングの担当者は、表面的な印象や根拠のない言い伝えに頼り、まるで中世の医師たちと同じようなことを行っている
かなり厳しい言葉です。著者は、「マーケティングの世界に検証不十分な理論や根拠のない理論があふれていること」、さらに「そうした理論をマーケターたちが盲信しているため、現場から効率と生産性が奪われていること」に危機感を抱いているのです。
パレートの法則通りにはならない
同書では、ニールセンやTNSなどから提供された豊富なデータ、すなわちエビデンスに基づいて主張が展開されます。
例えば、パレートの法則について。売り上げの80%はブランド購買客の上位20%からもたらされている、というお馴染みのルールですが、著者は、「実際の比率はこれほど極端ではない」といいます。
そのエビデンスは、ボディスプレーとデオドラントのブランドに関するデータ。著者らが20のブランドついて調査したところ、上位20%のヘビーユーザーによる売り上げの割合は、3か月の平均で39%、1年間の平均でも50%にとどまるという結果になりました。
同書の言葉を借りると、「ノンユーザーやライトユーザーは想像以上にヘビーユーザーであり、ヘビーユーザーは想像以上にライトユーザー」だったのです。
著者はこのことを、次のようにまとめています。
パレートの法則(60/20):ブランドの売り上げの半分強がそのブランドの上位20%の顧客によってもたらされ、残りの売り上げが下位80%の顧客によってもたらされる(通常のパレートの法則の80/20にはならない)
同書を読み進めながら、自身を振り返ってみると、これまでは教科書に書かれた理論を頭に入れることに一生懸命だった場合がほとんど。それぞれの理論の背景に、どのようなエビデンスがあるのか、考えてみたことは少なかったと気づきました。
”賢い”マスマーケティングにこそ勝機あり
こうしたデータをもとに、同書ではブランドの育成に関して、コトラーをはじめとする主流派の理論に真っ向勝負を仕掛けていきます。中でも驚くのは以下の主張。
今日の一流ブランドの大部分を成長させたのは、CRMやリレーションマーケティング、ロイヤリティプログラムではなくマスマーケティングであった
いまはセグメンテーションの時代なのでは? しかし、前掲の「パレートの法則(60/20)」を思い出してみると、ライトユーザーやノンユーザーを置き去りにするのは得策ではないとわかります。また、この主張に関連するものとして、マスマーケティングの重要性を裏付けるその他の法則や、戦略づくりの道しるべとなる「洗練されたマスマーケティングのための処方箋」が紹介されています。
11の法則を裏付けるエビデンスとして登場したのは、コーラやシャンプー、歯磨き粉など身近な製品の購買に関するもの。自分がモノを買うときの気持ちや行動を思い出しながら、読むことができました。
すべての法則を紹介した上で、著者はこう述べています。
これまで考察してきたように、購買行動と購買実績を支配する規則性は現実に存在している
法則や理論は、複雑な現実を理解し、戦略を立てる手助けをしてくれます。その際大切なのは、「科学的根拠を理解しようとした上で、活用することではないか」と考えさせられました。
また、同書の末尾には、規則性に則った「戦略を成功させる7つのルール」を掲載。シンプルな言葉でまとめられているこちらのルールを覚えておけば、困ったときに味方になってくれるはずです。現在行っているブランディング施策が行き詰っている、新しいアイデアが欲しい、と考えるマーケターの方は、手に取ってみてはいかがでしょうか?