サブスクリプションモデルを拡大させた4つの要因
――昨今では、デジタルやアナログ問わずサブスクリプションモデルを導入する企業が増加しています。西井さんは、これにはどういった要因があるとお考えですか?
西井:まず前提として、一回のみの売り切り型ではなく継続して購入を促すモデル自体は、実は以前からありました。代表例としては、化粧品や健康食品などの単品定期通販(定期購入サービス)ですね。新聞の宅配やケーブルテレビなどの月額サービスも、これと同様のモデルにあたります。
近年普及しているサブスクリプションモデルは、これらの定期購入サービスと類似しているように見えますが、マーケティングの側面から見るとこの2つは大きく異なると私は考えています。
上記のような定期購入サービスでは、たとえば「健康食品の定期購入に申し込むと○%オフ」という金銭的メリットや、「毎回店舗に行ったり電話で注文したりする手間が省ける」といった利便性でのメリットがユーザー側にありました。また企業側には、継続して購入してもらうことでLTVが高くなるというメリットがありました。
ところが、インターネットの普及によって、今や近くの店舗を探し回らなくても、より安価な商品をネット上で見つけることが可能になりました。また、店舗や電話を経由せずとも、在庫が切れた好きなタイミングで、ワンクリックで簡単に購入することもできますよね。そのため、これまでの価格訴求や、「定期的に届けるだけ」という定期購入サービスは苦戦しているように思います。
では、現在のサブスクリプションモデルはこうした定期購入サービスとどう違い、なぜ今前者が注目されているのか。私は4つのポイントがあると考えています。

1.広告での差別化が困難になってきた
これまで、多くの企業は「広告」で他社製品との差別化を図ってきました。たとえば、冒頭で紹介した弊社の3ブランドは、それぞれ産地・生産者・サービスの中身が異なります。広告でそれらの違いを表現しようとしても、情報量が多くなってしまい、お客様にとっては違いが判別しづらいかもしれません。
サブスクリプションモデルにおける1つ目の特徴として、入り口のハードルが低い点が挙げられます。弊社では、上記の3ブランドで、それぞれ「おためしセット」と呼ばれるものをお手頃な料金で用意しています。最初から定期での購入を決める必要はありません。実際に利用してみて、お客様が最も自分のライフスタイルに合うと感じたものを選ぶことができる仕組みになっています。
入り口のハードルを低くする分、一度の利用だけでは採算が合わないことが多いでしょう。それでも、その後に定期コースを選んでいただければ、数ヵ月後にはLTVがCPO(Cost Per Order:注文獲得単価)を上回り、結果として利益を回収することができます。
広告は、あくまでお客様に商品・サービスを知っていただくための接点の1つ。その後の「利用」があってはじめて、「この商品・サービスを今後も使おう」と思っていただけます。ここまでは、これまでの定期サービスと同様のビジネスモデルですね。
2.パーソナル・コミュニケーションの台頭
2つ目のポイントには、企業とユーザーのコミュニケーションの形が変容している点があると思います。マス向けのプロモーションが主だったこれまでのマーケティングでは、お客様に対して共通のコミュニケーションをとることしかできませんでした。
それが現在では、スマホの普及によって、一人ひとりに応じたコミュニケーションが実現できるようになりました。たとえば、音楽のサブスクリプションサービス「Spotify」では、4,000万曲以上ある楽曲をユーザーにすべて探させるようなことはしません。これまでにユーザーが視聴した音楽の傾向から趣味趣向を分析し、一人ひとりに新しい音楽を発見する機会を提供しています。「長く利用していくうちに、サービスがユーザーのライフスタイルに合わせて最適化されていく」というのは、サブスクリプションモデルが持つもう1つの特徴です。
弊社が提供する定期ボックスでも、利用頻度の高い食品は最初からカートに入っていたり、逆に何度か削除された食品はカートには入ってこなかったりする状態を作っています。お客様は、毎週のお買い物で一度に20種類前後の商品を購入するわけですから、その都度すべてをゼロからカートに入れるのは大変ですよね。マスから、よりパーソナルなコミュニケーションが可能になったことは、新しいサブスクリプションモデルが登場した要因と言えるでしょう。