「予約購買」によって進む新たな市場創出
3.「共創」によるサービスのアップデート
これまでのマーケティングでは、「購買」をゴールとした考えが主流でした。1つ目のポイントでも触れましたが、サブスクリプションモデルでは入り口、つまり最初の購買に対するハードルは低く設定されます。「購買」がゴールではなく、そこからサービスを改善して、お客様に良い体験をしていただくためです。
これには、前述したスマホの普及などによって、ユーザーの利用データが簡単に収集できるようになったことが大きく影響しています。企業はユーザーのアクセスデータや利用傾向などをもとに、サービスの改善を継続的に行い、アップデートし続けることができるようになりました。ソフトウェアやSaaSなら、UIの改善・新機能開発などですね。
こうした話は、SaaSに限ったものとして捉えられることが多いのですが、最近は食品や化粧品の商品開発でもこの手法が使われています。弊社の主力商品の1つである「ミールキット」も、発売当初からヒットしていたわけではありません。
料理手順の説明書や味の濃淡など、お客様へのインタビューを繰り返し行うことでサービスを細かくアップデートし続け、現在のような形に至っています。このように、マーケティング全体が、ユーザーと共創していく方向にシフトし始めているように思います。
4.「予約購買」の考え方によって市場が変化
4つ目のポイントは、「市場の変化」です。これまでのマーケティングでは、新規サービスをリリースする際には、できる限り利用想定ユーザー人数が多い市場に向けて商品・サービスを提供するほうが効率的でした。その反面、ユーザーが抱えるニッチなニーズを拾い切れないという課題がありました。
ところが、現在ビジネスとして成立しているサブスクリプションモデルのサービスはどうでしょうか? たとえばクラウド型の人事労務ソフトサービス「SmartHR」は、企業の中でも「人事・労務に携わる人」という狭い層をターゲットにしています。
私は、「サブスクリプション」には「予約購買」という意味も含まれていると思っています。つまり、商品・サービスを購入または利用したいという人に先に手を挙げてもらうことで、企業側が事前にニーズを把握し、しっかりとそのニーズを満たす商品・サービスを提供するという考え方です。
これまでは、市場に商品・サービスを出さなければ、実際にどの程度ニーズがあるのかが把握できませんでした。そのため、シェアの大きな市場に商品・サービスを打ち出していたのですが、既にそこは群雄割拠。先行してユーザーを獲得した商品・サービスが存在しているため、結果的に早期にコモディティ化していくという結末が待っていました。
それが今では、ニッチなニーズであっても、しっかりと生産と供給のバランスが成立する市場ができています。弊社で取り扱っている有機野菜は、もともと市場になかったわけではありませんが、一定のニーズがある一方で、スーパーマーケットなどでの取り扱いは非常に難しい商品だったと思います。生産者から見ると販売予測が立てづらく、通常の野菜を育てたほうが安定した収益を見込めるためです。
こうしたケースでも、サブスクリプションモデルであれば、1年後の需要予測が立てやすい。また、我々のような販売企業と連携することで、年間単位での栽培が依頼できるようになっています。このように、お客様のニーズと作り手の生産量のマッチングが可能になったことも、サブスクリプションモデルが持つ特徴の1つだと思います。
