「体験設計」がなければユーザーは離れていく
――これからサブスクリプションモデルを導入しようと考える企業は、何を意識すべきでしょうか?
西井:実は、サブスクリプションモデルは難易度の高いビジネスモデルじゃないかと思っています。入り口のハードルが低い分、逆にサービス体験がしっかりと設計されていなければすぐにユーザーは離れてしまうためです。重要なのは、まず「サービスづくり」から考えることです。
繰り返しになりますが、これまでのマーケティングは「商品開発」を起点とし、「購買」がゴールとなっていました。ところが弊社では、「食を通じて、いかにユーザーの課題を解決できるか」というサービスありきで考えています。「購買(利用)」はあくまでもスタートですね。
たとえば中国市場にサービス展開をするにしても、食文化が異なる中国では、日本国内で提供しているモデルをそのまま持ち込むだけでは通用しません。まずは、数十~数百人の小規模向けにサービスを打ち出します。そして、仮説を立てた上でデータ分析やユーザーインタビューなどを重ね、サービスや取扱商品をチューニングしていきます。こうして解約率が低くなったタイミングで、はじめてプロモーションをかけます。
「サブスクリプションモデル」と聞くと、手法やシステムの話になってしまいがちですが、同モデルが普及した背景には、これまでの「プロモーション」ばかりを意識したマーケティングの変容があります。サブスクリプションモデルでは、まずは顧客視点で「理想のライフスタイルづくり」をすることから始まり、次に商品・サービスのアップデートを行い、最後に「プロモーション」が来ます。
企業のマーケティングコストも、プロモーション偏重ではなく、より商品・サービスづくりやコミュニケーションの改善などに充てられるようになっていくのではないでしょうか。
マーケティング全体が「ユーザー体験」にシフト
――昨今よく耳にする「顧客体験(CX)」がやはり重要になっているのでしょうか?
西井:拙著でも言及していますが、解約率を抑えるためには「F2(2回目の購入)」でいかにユーザー体験を提供できるかが肝要です。これまでの日本のマーケティングは、どうしても「商品開発」「モノづくり」にばかり目が向けられていた印象があります。
それが今、サブスクリプションモデルに代表されるように、ユーザー体験を重要視していく機運が高まっています。これは決してデジタル領域に限った話ではありません。飲食業界や自動車メーカーなどのリアルな世界でも、サブスクリプションモデルは広がっています。つまり、マーケティング自体の考え方が変わりつつあるということが言えると思います。
――サブスクリプションモデルにおいて西井さんが注目されている業界はありますか?
西井:米国はやはり日本よりも進んでいますので、アマゾンのサービスモデルや「Spotify」などでどういった取り組みがされているかは、常に見て学んでいますね。やはり、サブスクリプションモデルもある程度乱立してくると、商品・サービスの独自性がポイントになっていくように感じます。
最近のサブスクリプションモデルで注目しているのは、最低月額15,000円で全国のホステルに泊まり放題となる「Hostel Life」というサービスですね。提携しているホステルがどこでも利用できるようになるので、場所を問わず仕事をすることができるようになります。ニッチなサービスに見えますが、「自分らしい生活スタイルを選ぶ」という人が増えていく中で、このようなサービスに追従する企業が今後さらに出てくると見ています。
――最後に、サブスクリプションモデルを中心とした業界の今後について展望をお聞かせください。
西井:失敗を恐れず、継続的にPDCAのサイクルを回していくことが大切だと考えています。たとえば中国のドローン会社では、完成版の開発に至っていない段階でも、平気でβ版とかをリリースするんですよね。不完全な状態でもリリースして、どんどんアップデートをしていく。商品・サービスにおいても、こうしたグロースハック的な手法を用いて、体験をアップデートし続けていくことが求められていると思います。

――どうもありがとうございました。
