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MarkeZine Day 2025 Retail

オムニチャネル戦略の成功&失敗事例から学ぶ「勝てる」マーケティング思考

しまむらがオムニチャネル戦略に乗り遅れた理由/「店舗とのエンゲージメント」という罠

顧客を理解するためのデータ活用を

 店舗では、顧客との間にエンゲージメントを築くことに注力するべきだというのが私の持論です。たとえば、あなたがアマゾンや楽天でミネラルウォーターを買うのはなぜでしょうか? 他と比べて低価であったり、クーポンを適用できたりするからで、アマゾンのECサイトとの間にエンゲージメントがあるからではないはずです。重要なのは、オンラインとオフラインどちらにチャネル(場、Place)を置くかということではなく、顧客との間にエンゲージメントがあるかどうかです。

 しまむらは他の企業とは違い、「場(Place)」に強みを持ったビジネスモデルを構築してきました。その分、今抱えている既存顧客との取引を維持することに関しては、大きな問題はないでしょう。しかし、これから求められる「場(Place)」の強みは、企業視点の顧客を吸引する力ではなく、そこで顧客とのエンゲージメントを構築する力に変わりつつあります。その力がないまま、デジタルにチャネルだけを広げても顧客はなかなかついてきません。そこに、その先にある他の3つのP(「商品」「価格」「販促」)もうまく機能しない状態が発生している。これがまさに、しまむらが直面しているジレンマです。

 たらればの話になりますが、小商圏内の顧客を理解することに早期から着手していれば、もしかすると今とは違った状態にあったのかもしれません。顧客データが蓄積されていない今、これまで通用してきたプロダクトアウトを今後継続しても、いずれ限界が来ることは想像に難くありません。

 こうした「店舗依存」から脱却するには、店舗ではなく、そこに足を運ぶ「顧客」に目を向ける必要があります。デジタルを使った施策に取り組む前に、まずはそうした顧客管理の体制を整えることが肝要です。その上で、店舗に顧客を呼び込むデジタル施策を考えましょう。

 しまむらは、ネットで注文した商品の店頭受け取りや、店舗で購入した商品が自宅に配送できるサービスなどの提供も計画しているのは正しいと思います。顧客データを持っているにもかかわらず、うまくチャネルシフトができてない通販会社の多くと比べると、超えなければならない障壁は低いと言えます。

顧客が企業を「選択」する背景にあるものは何か

 しまむらのような企業の生き残り策は以下2点のいずれかではないでしょうか。

  • 「商品(Product)」力を常に高め続ける/プロダクト・アウト型で顧客をお店に吸引し続ける
  • 「店舗(Place)」の力を顧客視点で作り出す。今までのような企業視点のビジネスモデルから、顧客理解をベースとした、「店舗(Place)」へのエンゲージメントに変えていく

 地方であれば、前述したようなファストファッションの店舗も多く展開されていないため逃げ切れるかもしれませんが、都心での戦いはこれから厳しくなることが予想されます。オフラインの成功体験があり、これからデジタルに取り組まなくてはならない企業のマーケターには、「顧客時間(「選択」→「購入」→「使用」)」の中でも、「選択」に着目してほしいと思います。

 多くの企業は、「選択」ではなく「購入」ばかりを気にかけているのです。店舗を売り上げの場としか見ることができていないことが多く、店舗に足を運ぶ前の「選択」を見過ごしてしまうことが往々にしてあります。着目すべきは、オンラインでもオフラインでも購入ではなく、顧客がどのような動機・経路で商品・サービスを「選択」しているかです。オムニチャネルにおいて、顧客はオンラインとオフラインを自由に行き来します。顧客データがあれば、この顧客の「選択」を可視化することが可能です。

 「顧客時間」の理解を難しく考える必要はありません。顧客視点に立ち、カスタマージャーニーを自分に当てはめることを実践すればいいのです。私自身、若年層のことを完全に理解しているわけではありませんが、自分ごと化して考えることは誰にでもできます。

 たとえば、「2日前に友達が経営しているうどん屋の話を聞いたことを思い出し、うどんを食べたいと思った」「テレビで野球をやっていたのを見て、スポーツをしたくなった」「SNSで美味しそうなクレープの写真の投稿を見たので、友達を誘って食べに行きたくなった」などです。このように、なぜ商品・サービスを購入・利用したいと思ったかを自らに当てはめ、突き詰めてみることが大切です。

 今後、デジタルネイティブなマーケターたちが市場の中心的存在になっていくことはいいことです。一方で、デジタルしかやったことのないマーケターが増えていくならば、そういった方たちこそ、実際に店舗に足を運ぶことをお勧めします。すべてをデジタルで完結しようという考えに陥ってしまいがちですが、「アナログな状態でデジタルを考えること」が大切です。100%デジタルだけで完結する世界などありませんよね。

 顧客時間を自分ごと化して考えることを習慣化すると、段々と自社のカスタマージャーニーの違和感に気づくことができるようになっていきます。そして、それに対する改善施策も見えてくるはずです。「顧客時間」を理解することは、顧客の心を動かすというマーケティングの基本に立ち返ること。顧客の気持ちを自分ごととして深く考えることを、今日から始めてみませんか。

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/12/06 07:00 https://markezine.jp/article/detail/29722

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