米英に対して20年遅れ!? 日本のCMオンライン送稿
有園: 2017年10月、日本でもテレビCMのオンライン送稿(オンライン搬入)がやっと始まりました。今回は、その先陣を切った資生堂ジャパンのCM送稿も手がけた、テレビCMオンライン運用をグローバルでサービス展開するGroup IMDの田中さんとディスカッションしたいと思います。まず御社の紹介をお願いできますか?
田中:当社は1996年にイギリスで創業し、現在世界37拠点を有しています。広告主と広告会社をクライアントに、100カ国以上の放送局やWebメディアへ、毎日最大8,000素材ほどをオンラインで送稿しています。日本には2011年に進出しまして、これまで日本市場の知見を蓄積しながら、各ステークホルダーと対話を重ねてオンライン送稿の実現を目指してきました。
有園: いろいろな仕組みの整備などに約6年かかったわけですね、おつかれさまです。テレビCM周りは、テレビ局、広告主、広告会社、制作会社と主要ステークホルダーも多く、独特の商習慣もありますから、なかなか一筋縄ではいかなかったのは想像がつきます。
96年創業ということは、欧米ではすごく早くにテレビCMのオンライン送稿がスタートしているわけですよね。まず、サービス提供プレーヤーも含め、現在のグローバルの状況を簡単にうかがえますか?
田中:当社の創業のきっかけはラジオCMのオンライン送稿でして、テレビCMに進出したのは06年からなんです。ただテレビCMのオンライン送稿自体は、北米では90年代から始まっています。
オーストラリアで2000年代初頭から、次いてイギリスという感じですね。物理的なテープの配送をオンライン化するので、国土が広いところから普及・浸透しています。当社のようなプレーヤーは他に、アドストリーム、エクストリームリーチという会社があり、この3社でほぼグローバルをカバーしています。
オンライン送稿サービスに8社が参入する日本
有園: 日本ではオンライン送稿サービスを提供する事業者は御社を含めて現在8社あると聞いており、その内4社がポストプロダクション(以下、ポスプロ※)であるIMAGICA GROUPのフォトロン、音響ハウス、イメージスタジオ109、オムニバス・ジャパンと伺っていますが、海外における競合の事情と、御社の国内市場シェアを聞かせてもらえますか?
田中:世界的に見てもこれほど多くの事業者が参入している市場は日本だけです。海外では通常当社を含む2社で競い合うのが一般的で、米国など巨大市場においても3社程度に収まっていますので、日本市場は非常に特殊です。その中で当社の国内市場シェアは恐らく第2位くらいなのではないかと思います。
※テレビCM、番組やパッケージメディアなどの映像作品、映画の制作において、撮影後の作業を専門とするスタジオのことを指す
有園: なるほど、そのあたりにも業界の複雑さが表れていそうですね。いずれにしても、世界のトップスピードに比べると、日本は約20年遅れている、と。現在のオンライン送稿の利用状況は、どんな感じなのでしょうか?
田中:直近でこの10月に日本アドバタイザーズ協会が、会員社288社を対象に行われたオンライン送稿についてのアンケート調査によると、回答企業の17%が「既に導入している」と答えています。また、業界予測として全CM素材の5%程度がオンラインで送られているようです。
これは広告主の積極性とは別に、受け付ける側である全国133放送局(地上波127局、BS 6局)の対応可否にもよるので、一気に進むまでにはまだ時間がかかりそうです。当社のクライアントの中でも放送局の環境が整い次第どんどん切り替えたいという企業から、まだ1ブランドでのみ試している企業まで、まちまちですね。ちなみにオンライン送稿には11月現在で75局(地上波71局、BS 4局)が対応しています。