「心理」と「市場」から流行の理由を考える
この商品を流行らせたい、あの投稿でバズを起こしたい――マーケターに限らず、多くの人が「ヒット」を夢見ます。今回ご紹介する『ヒットの設計図──ポケモンGOからトランプ現象まで』は、そうした思いをもつ方が深く学べる1冊です。
著者のデレク・トンプソン氏は、米国の評論誌で経済・メディア関連の記事を執筆する編集主任。テレビ出演や、グーグルの社内プログラムでの講演も行っています。
同書において、はじめに提示される2つの問いがこちら。
・人々が好む製品を作る秘訣とは何か?
・同様のアイデアなのに、まったく当たらない製品と大当たりする製品があるのはなぜか?
著者はこの謎に迫るために、人間の「心理」と、製品を広める「市場」の両方に着目。実際のヒット商品を例に挙げながら、話を展開していきます。
口コミで成功するのは奇跡? 流行を支えていたのは……
では「市場」において、モノやアイデアはどのように広まっていくのでしょうか。流行の理由を説明するときに用いられることがあるのが、「バイラルマーケティング」という理論。まるでウイルスに感染するように、1人から2人に、2人から4人に口コミが広がり続け、やがて社会現象になるという考え方です。
しかし著者は、ヒット商品の仕掛け人やネットワークの専門家に取材を重ねた上で、デジタルの世界で「バイラル」が起こるのは非常に稀であると主張します。代わりに大流行を支えているのは、1つの情報源から多くの人が同時に情報を得る「ブロードキャスト(放送)拡散」のメカニズム。つまり「1対1がつながる瞬間が100万回存在したのではなく、1対100万の瞬間が何回かあった」ために、ヒットが生まれるというのです。
たとえば、ベストセラー書籍『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、次の3つの「ブロードキャスト拡散」の力によって多くの読者に届きました。
・書籍の出版後、書評サイトの人気投票でランクインした
・より大きな出版社と契約を交わし、認知と流通が一気に拡大した
ヒットというのは人から人へ、伝言ゲームのように伝わるイメージを持たれがちですが、著者の表現を借りれば、「ボーリングの球が、並んでいる数個のピンの先頭を倒す」ように広がっていくものだということです。
しかしまだ誰にも知られていない商品やコンテンツを、いきなり100万人に届ける機会を得るのは困難。「ブロードキャスト拡散」の波に乗せるには、どうしたらよいのでしょうか。
小さなネットワークを見つけ、そこに働きかける
アイデアの広げ方について、著者はこのようなアドバイスをしています。
何かのアイデアは、関心のある人たちが緊密につながっている既存のネットワークに乗った時に、最も確実に広がる
お手本として紹介されているのは、マッチングアプリ「Tinder(ティンダー)」のマーケティング。マーケターは、インフルエンサーや大きなブロードキャストを介して拡散したのではなく、元々享楽的な校風のある大学の社交クラブに出向き、アプリのダウンロードを依頼して利用者を増やしていきました。商品やコンテンツに人が集まってくるのを待つのではなく、ぴったりのネットワークを見つけ、そこに仕掛けていくことが重要というわけです。
また同書では「人々が好む製品を作る秘訣」も紹介。
顧客にとってなじみのあるものを売るときは、そこに驚きを加えること。顧客を驚かすようなものを、売るときには、なじみ感が得られるようにすること
編集者として人々の好みや流行をウォッチし続けてきた著者ならではの、鋭い視点が活きています。
ヒットの役目は昔と同じ 変わったのは「広げ方」
著者は同書の最後で、ネットが登場してからも、遊びを提供する、古いものに新風を吹き込むといったヒットの役目は変わっていないと前置きした上で、こう指摘しています。
昔と今とで違うのは、ヒットを生じさせる方法だ。今は、一介の個人の能力で膨大な人数の聴衆を得ることも可能だし、ディズニーのように巨大企業がその力をもって世界的な「全知」を達成することも可能だ。
誰もがヒットを生むチャンスをもつ時代だからこそ、モノやアイデアの広め方を適切に設計することが、勝負の分かれ道なのだと感じました。同書を参考に、戦略のブラッシュアップに取り組んでみてはいかがでしょうか。