重要なのはたったひとつの問い

――最近のマーケティング業界において気になる動きはありますか?
日本のデジタルマーケティング業界は人材不足です。マーケティングと広告の業界で働く人はそれほど多くなく、特にデジタルやデータの分野に強い人材は少ない。企業間で人材の激しい獲得競争が起きています。もっといろいろな才能をもった人が必要だと、常々感じています。
一方で、人材不足を補うために他の業界や海外から人を雇い始めている現状があり、これが業界全体や企業の多様性を高めることにつながっています。
世界的には、これまでアウトソース化していたマーケティング業務をインハウス化する動きが顕著になっています。日本でも、その傾向が見受けられるようになりました。データやコンバージョンをより深く理解し、アクションにつなげるには、そのほうがやりやすいのではないでしょうか。
しかし、様々な動きが起こる中で根本的に重要なのは、「消費者はどこにいるのか」という問いを常に頭の片隅に置き、それに順応することだと考えています。消費者は常に一歩先にいます。マーケターはデータという武器を駆使して、彼らを理解しなければいけません。
私自身、消費者の変化に合わせて様々なスキルを身に着けてきました。セールスプロモーションとダイレクトマーケティングの分野でキャリアをスタートさせましたが、その後CRM、ソーシャルメディア、コンテンツマーケティングなどに関わりました。さらに、パフォーマンスを測るためにデータを深く理解することを学び、モバイルやアプリにも応用しています。だからこそ、マーケターの仕事に、好奇心は欠かせないと思います。
「すべてが初めて」成功例のない領域で
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
CMOとして、「GeneLife」というブランドを大きく育てたいです。遺伝子検査という多くの消費者にとって未知の分野でブランドを確立するには、その必要性を感じてもらえるよう啓発することが、まず重要です。遺伝子検査によってわかること、たとえば「どんなダイエットが向いているのかわかる」、「どんなビタミンが効くのかがわかる」ということを、効果的に伝えていくことが欠かせません。マーケターの腕の見せ所です。既存の産業なら、「こうすればうまくいく」というベストプラクティスが既に整っています。しかし私が手掛けているこの分野は、すべてが初めて。まったく新しいフィールドでマーケターとして働くことは、チャレンジングであり、エキサイティングです。
個人としては、マーケティングの業界にお返ししていきたいという思いをもっています。私には、幸運な出会いがたくさんありました。実はこの業界で働こうと思ったきっかけは、14歳の頃に読んだマーケティングに関する新聞記事。「マーケティングの世界はおもしろい、深く研究していく価値がある」とすぐにのめりこみましたね。それからずっと、この業界にいます。基礎を学んだビジネススクールでも、素敵な先生に会いました。
そうした幸運への「お返し」として、テンプル大学の日本校や、シンガポールのSMU(Singapore Management University)などで学生に教えています。日本語を話せないので、日本の大学に向かえないのが残念ですが……。
当社でも、マーケティングに対する熱量が高い方を、インターンとして受け入れていきたいです。高い学歴や卒業資格は必須ではありません。重要なのはやる気と強い興味・関心です。それが道を切り開く武器になるのですから。