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花王廣澤氏が若手視点で聞く、これまでとこれからのマーケティング

「世の中に新しい提案、できていますか?」マーケターとして市場創造する方法【花王廣澤氏×OB石井氏】

 本企画では、現役で花王のマーケティング業務に携わる廣澤祐氏が、業界で活躍されている方と対談。若手マーケターをはじめとした幅広い方に学びとなる情報を届けます。第1回は花王OBである石井龍夫さんと「市場創造」と「若手マーケターに求められること」について考えます。

日本は市場拡大を得意としてきた

廣澤:今回は、石井さんとマーケティングのこれまでを振り返りながら、マーケターが「市場創造」を起こす方法について考えます。

 そもそもこのテーマにしたのは、私自身が昨今のマーケティング業界全体において、商品のハイスペック化やコモディティ化が加速し、イノベーションの難易度が年々上がっていることに問題意識があるからです。

左:花王 廣澤 祐氏 右:石井龍夫氏
左:花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部 廣澤 祐氏
右:石井龍夫氏

 そして、これまで長きにわたり市場開拓・市場創造の両方に取り組んでいる石井さんであれば、これからもマーケティングに携わっていくためのヒントを探れると考え、今回の対談をお願いしました。まず、市場には「創造する」瞬間と「拡大する」瞬間があると思うのですが、そこにはどういった違いがあると思いますか。

石井:かなり難しい質問なので、日本企業の歴史とともに考えたいと思います(笑)。まず、日本は市場創造よりも市場拡大を得意としてきました。

 たとえば、花王のアタックという洗剤は、発売当初は市場を創造していました。当時の衣料用洗剤は販売店のチラシ商材で、4.1kgという特大サイズが低価格で売られていました。安いからといって2個も買えば重くて、他に何も持って帰れませんよね。一方でメーカーには、価格競争の中、ほとんど利益が取れないという課題があったのです。

 そのような時代に、アタックは洗浄力を高めながら、コンパクト化を実現しました。これによって、主婦は野菜などの食材を買うついでに洗剤も買えるようになった、つまり生活者のライフスタイルが変わったんです。企業側の視点で見れば、市場シェアが大きく変化するイノベーション、つまり市場創造を起こしたのです。

廣澤:そこから、市場を拡大したと。

石井:そうですね。それ以降花王は、アタックがより利益の生まれる商品になるよう都度改良を加え、コストダウンしながら性能を維持しようとします。その結果、「使い勝手が良くなったから」「洗濯する時間が短くなるから」などと選ばれる理由を作り、作った市場を大きくしてきました。これが持続的イノベーションであり、それによって、市場拡大をしてきたのです。

 また日本では、他社の市場創造に至ったアイデアをもとに、より性能が高く低コストなものを作り、その市場を自分たちのものとするというパターンも多く見受けられました。

 これらを踏まえると、日本企業の大方は市場創造ではなく、市場拡大を続けてきたし、そこにおけるスキルが非常に高かったと思います。

細分化された顧客の共通点がカギ

廣澤:では、日本で市場創造と言える商品・サービスは少ないということでしょうか。

石井:そんなことはありません。花王で見ても、いくつかの商品は市場創造に貢献していると思います。ここで重要なのは、お客様に対して新しいライフスタイルやその商品を使うべき理由を提案できたというより、その提案にお客様が納得したかどうかだと思います。そのお客様の納得が得られなければ、市場拡大はできても市場創造はできません。

 そして、市場創造が難しい理由として、顧客理解の難易度が上がっていることにあると思います。

廣澤:確かに、生活者の文化の多様化が進み、顧客理解が非常に難しくなっていると思います。その上、文化がものすごく小さい粒度で存在することで、一つひとつの文化でマネタイズしていくのが難しくなっているのではないでしょうか。

 また、デジタルを起点に高単価でお客様のサポートまで含めて設計された商品も登場していますが、現状シェアを何十%と取るような商品はありません。このような状況の中で、消費財メーカーをはじめとした、マスコミュニケーションを中心に行ってきたブランドはどのようにすべきなのでしょうか。

石井:確かにデジタル化が進むことで顧客の細分化が起きているということは事実です。ただ、その顧客の持つ悩みを見つけ、そこに他の顧客と共通のものがないか探れば、コミュニケーションを効率化することも可能です。花王が掲げる「スモールマス」という言葉にも似た意図があると思います。

 要するに、細分化された市場が存在しているかもしれないけれど、AとA´の市場というのは限りなく近い。それらの市場を同じものとしてセグメント化し、効率的な生産とコミュニケーションを戦略的に行うことが求められているのです。そして、適切なセグメントを作るには、これまでより深い顧客理解を行うことが重要になっています。

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この記事の著者

廣澤 祐(ひろさわ ゆう)

花王株式会社 DX戦略部門

2015年に花王株式会社へ入社し、デジタルマーケティングを経験したのち化粧品ブランドのマーケティングに従事。2021年からDX担当部門としてデジタル活用の推進に従事。2020年より公益社団法人日本アドバタイザーズ協会デジタルマーケティング研究機構 U35プロジェクト幹事を務め...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/01/17 09:00 https://markezine.jp/article/detail/29871

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