顧客理解の方法にも変化が
廣澤:では、適切に顧客理解を進めるためにはどうすれば良いとお考えでしょうか。
石井:「顧客理解と言えばこれ」という答えはないですね。生活者が入手できる情報量が現在と過去では大きく異なります。マスメディア中心の時代であれば、生活者の入手できる情報が均一であることが多く、企業がサンプリング調査で集めた情報を中心に顧客理解をしても問題ありませんでした。

しかし、インターネットが普及し、様々な情報を自分の趣味・嗜好に応じて即時に入手できる現代だと、隣に座っている人と私の持っている情報は大きく違います。そのため、サンプリング調査では全体像が見えにくい状況になっているのです。
現代は、顧客理解をするための方法や粒度が複雑性を増しており、マーケターはその中から適切な方法を探る必要があります。
顧客の求めるサービスにも変化
廣澤:石井さんの話にもありましたが、昔は企業と消費者の情報格差は大きかったのに対し、現在では対等に近づきつつあります。これにともない、モノとサービスは別々であるという「グッズ・ドミナント・ロジック(以下、GDL)」から、モノとサービスが一体化して提供される「サービス・ドミナント・ロジック(以下、SDL)」へと、変化が進んでいるように思うのですがいかがでしょうか。
石井:変化は進んでいるでしょうね。その理由としては、過去の「課題解決型のモノを作れば売れる」という時代に比べ、現代は生活に対して不満が少なくなっているという背景があると思います。
たとえば洗剤であれば、落ちない汚れはほとんどなくなりました。そこには、企業の製品開発努力によって、洗浄力が向上したのはもちろんですが、ライフスタイル自体が変化し、落ちにくい汚れをつける人も減っているのです。
そうなると、商品で課題解決すること自体のハードルが下がるので「○○じゃないと困る」という人も減ってきます。企業は「なぜその商品・サービスを使うべきか」という価値を作る必要が出てきた。これがGDLからSDLへの変化だと思います。
ただ、GDLの時代でもお客様はサービスを求めていたと思います。これまでは受けたいサービスを実現するため、モノを購入するという選択肢しかなかっただけかと。ですので、変化というよりは「サービスを受けたい」という本質が表面化したことで、SDLの重要性がより叫ばれるようになったのではないでしょうか。
若手マーケターに求められることは?
廣澤:続いて、ここまでの話を踏まえ、私や20~30代の若手マーケターがどのようなアクションを取るべきかお伺いしたいと思います。石井さんは、今後の若手マーケターにどのようなことを求めていますか?
石井:シンプルに頑張ってほしいですね(笑)。ここまでGDLやSDL、情報量の格差などと難しい話をしましたが、要はお客様が本当に欲しい商品やサービスを提供できれば良くて、それがマーケターに求められるミッションです。
たとえば、確実に髪が生える発毛剤が開発できれば、それを宣伝するためにターゲティングする必要もありません。とにかく「これを使えば髪の毛が生えます」とテレビCMを打てば、お店の前に行列ができます。
確かに、商品の機能が限界まで引き上げられ、お客さんの満足度も高い中での市場創造は難しく、市場拡大を目的としたマーケティング施策も必要でしょう。でもマーケターとして働くのであれば、「新しいサービスや価値を作り出し、市場創造することができないだろうか」と常に考えることが求められると思います。
そのために、様々な形で多様化する顧客を理解し、なおかつ、自社が持つリソースを把握しておくことが重要だと思います。