「実写化予告編風」の動画を制作した理由
高宮氏が見つけた課題、それは「作品の読者数に対する話題量の少なさ」だった。同氏はGANMA!のオリジナルマンガの中でも圧倒的な人気を誇る作品『リセット・ゲーム』を例に語った。

「コミックスマートさんは、ネット広告事業も手掛けるセプテーニグループのグループ会社ということもあり、運用型広告に関してはプロ中のプロ。その改善は十分に行っていると思います。さらに、GANMA!の『リセット・ゲーム』は累計750万ユーザー、ウィークリーでも100万近い読者がいるんです。この数字、有名な週刊マンガ誌にも引けを取らない数字なんですよ。しかし、GANMA!に対する話が周りから聞こえてこないんです。世のメジャーなマンガと同じぐらい読まれているのに、『○○読んでる』と話題にならないのはもったいないと感じました」(高宮氏)

GANMA!には応援レビューやコメント投稿機能が付いており、良くも悪くもGANMA!ユーザー同士のコミュニケーションがほぼアプリ内で完結していた。魅力的なオリジナル作品が多数あるにも関わらず、外に伝播しづらい環境になっていたのだ。
では、作品の魅力を広く伝えていくためにどのような手段が最適なのか。様々な角度からアプローチ方法を考えた結果、高宮氏は型破りな手法を提案した。
「一般的に映画化されたマンガ=人気がある、おもしろいというイメージがあると思います。その公式に乗っかり『映画化しました』と打ち出して、メジャー感を演出してみようと考えました。実際には映画化しませんし、映画予告風の動画を制作するだけです(笑)。ユーザーに対して壮大なドッキリを仕掛けたんです」(高宮氏)
クリエイティブ内容も本格的に
作品の魅力を活かしつつ、メジャー感を演出するために「映画予告風」動画を制作することにした両社。中途半端なクリエイティブではメジャー感が演出できないため、内容やキャスティングにも徹底的にこだわった。
「メジャー感を重視した結果、監督は堤幸彦さん、主演は新田真剣佑さんが最適だと思い、私たちで直接お願いしに行きました。堤監督に話を持ちかけに行った時は、原作がおもしろいと言っていただけた上に、その場ですぐOKの返事をいただきました」(高宮氏)
ここまでクリエイティブにこだわることで、高宮氏は「『リセット・ゲーム』自体がどれだけメジャーになれるかを可視化したかった」と語った。
広告というより、1つのコンテンツとして受け入れられた
制作した動画を最大限活かすためにどう展開していくのがベストなのか、コミックスマート、PARTY双方で慎重に戦略を練った。
「一気に拡散する前に、まず『リセット・ゲーム』のファンに向けたティザーキャンペーンを展開しました。アニメなのか実写なのかすらわからない、でも映像化しそうだということを匂わせる程度のティザームービーを作りました。その動画を『リセット・ゲーム』の最後のページに配信することで、ファンの推測の声を引き出すのが狙いでした」(福西氏)
ティザームービー公開後、狙い通りSNS上で「アニメ化するのか」「実写映画化するのか」というファンの推測の声が多数挙がった。ファンの関心をある程度高めた状態で実際の動画を公開すると、想定以上の反響があったという。
「動画はGANMA!内とYouTubeチャンネルなどで展開しました。すると、様々なメディア媒体に取り上げられたのはもちろん、新田真剣佑さんもInstagramで動画をアップしてくれたんです。そこでの再生回数も70万を超え、想像を超える波及効果が得られました」(高宮氏)
動画を展開するにあたりYouTube広告も利用したが、拡散の起点となったのは各種メディアや出演者によるPRだった。結果、これまでリーチできなかったエンタメ・芸能カテゴリのメディアにも取り上げられた。
「これまでにないプロモーションだったので、正直どんな反応が返ってくるのかまったく予想できず、公開前は怯えていました(笑)。しかし、蓋を開けてみれば多くの方に喜んでいただけた。『本当に映画化してほしい!』と背中を押してくれる声も多く、広告ではなく1つのコンテンツとして楽しんでいただけたと感じています」(福西氏)