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次世代マーケティング教室

中国最新事情 決済アプリがスマホのゲートウェイになる未来

“ニューリテール”の興隆と無人店舗

 スマホ決済の普及はイノベーションの創出と新たなライフスタイルの構築を実現する起爆剤にもなっている。たとえば、中国でも回転寿司店のように、セルフオーダーシステムを採用するレストランは少なくない。しかし異なるのはiPadなどタッチパネル式のデバイスを導入する必要性が特にない点だ。座席に着いた顧客は自分のスマホでWeChatと連携する店舗のミニプログラムを立ち上げ、そこに表示される料理のメニューからオーダーや決済を行う。

 中国版Amazon Goとも呼ばれる“無人コンビニ”も増えてきた。大手オンラインモール「京東商城」を運営する京東グループは「京東X無人超市」※3をチェーン展開する(図表2)。

図表2 店舗の出入りを顔面認証で管理する京東の無人コンビニ。商品にはRFIDタグが装着されている
図表2 店舗の出入りを顔面認証で管理する京東の無人コンビニ。商品にはRFIDタグが装着されている

 店舗の広さは100m2程度。初めて利用する場合は、WeChatのミニプログラムである「無人超市」を立ち上げ、顔画像とスマホ決済の認証を行う。そして入り口ゲートでスマホに表示されたIDをかざし、目の前のスクリーンで本人の顔認証ができれば入店が可能だ。商品棚に配置されている商品にはRFID(radio frequency identifier)タグが装着されており、出口付近で買い物かごを置くと、瞬時にかごの中の商品情報がスキャンされ、眼前のスクリーンに精算結果が映し出される仕組みになっている。

 なお、アリババが展開する無人店舗「淘咖啡(TaoCafe)」ではAlipayでの支払いが基本だが、「京東X無人超市」はテンセントとの提携関係があることから、紐付けできる決済ツールをWeChat Payに限定しているとみられる。

 このようにハイテクを活用した新たな小売業態は「新小売(ニューリテール)」と呼ばれており、そのほかアリババの「盒馬鮮生(フーマー・シエンション)」も全国規模での多店舗展開を実現した成功事例として挙げられる。「盒馬鮮生」では、購入した食材を店舗内で調理してもらえたり、半径3km以内のエリアであれば30分以内に自宅へ届けてもらえたりするなど、一口にグローサラントという枠で括られない業務内容は圧巻だ。

 「新小売」にまつわる報道は事欠かない。無人ホテル(成都、杭州)や「京東X未来レストラン」(天津)、日本でも店舗展開する「海底捞(ハイディーラオ)」が開業したスマート火鍋レストラン(北京)などでは、AIやロボットを活用して調理場の管理や接客対応が行われ話題をさらっている。

※3 中国語で「超市」はスーパーと訳されるが、「便利店」(コンビニ)との呼称の区別が明確ではない傾向がある。

QRコードを必要としない新たな決済システム

 スマホ決済で圧倒的なシェアを持つAlipayとWeChat Payだが、その間隙を縫うかのようにダークホースとして登場した「雲閃付(QuickPass)」の展開にも注目が集まっている(図表3)。

図表3 AlipayとWeChat Payを追撃する「雲閃付」を推奨するスーパー。メーカーのアプリとの連携も盛んだ
図表3 AlipayとWeChat Payを追撃する「雲閃付」を推奨するスーパー。メーカーのアプリとの連携も盛んだ

 「UnionPay(銀聯)」が提携銀行とともに打ち出した決済ツールであり、リリースからわずか1年で1億のユーザーを獲得したことがローカルメディアによって盛んに取り上げられている。

 「雲閃付」はAlipayやWeChat Payとは違ってミニプログラムとの連携がない点で訴求力を欠くものの、“本家”の金融機関としての強みはもとより、3大キャリア(中国移動・中国聯通・中国電信)との提携、さらにはサービス利用時のキャッシュバックといったキャンペーンが利用者獲得の上で功を奏している。上海の地下鉄駅では専用アプリを設定したスマホを改札口でかざして自動精算ができるようになっているが、2018年末からそこに紐付けできる決済ツールとして「雲閃付」も加わった。

 さらに大手スマホメーカーから支持を取り付けているのも追い風だ。たとえばファーウェイは主要機種に「ファーウェイ・ペイ」という決済アプリを組み込んでいる。近距離無線通信技術(NFC)を活用した、いわば設備投資が不要なPOSサービスを目指したアプリである。店舗では任意のアイテムに表示された「雲閃付」のタグにスマホをかざし、金額の入力と指紋認証を行うことで決済が完了する(図表4)。

図表4 店舗がQRコードスキャナーを用意しなくても決済が可能に
図表4 店舗がQRコードスキャナーを用意しなくても決済が可能に

 同サービスでは、“かざす”という動作は、スキャンを意味する「掃一掃(Sao Yi Sao)」と区別され、「碰一碰(Peng-Peng)」と呼ばれている。オフライン状態でも利用できるのはQRコード決済にはないメリットだろう。

 さらにセキュリティ面でも優れている。画面がオフまたはロックされた状態ではスマホをタグにかざしても支払い画面が現れることはなく、NFCチップに書き込まれた情報が改ざんされたり盗まれるリスクがないという点でQRコード決済よりも安心して利用できる※4。

 昨今の動向として特筆すべきはQRコードそのものを時代遅れにしてしまいかねない動きが出てきていることだ。顔認証や指紋などの生体認識の技術を活用し、デバイスさえも不要になっていく決済方法であり、中国では「無感支付」(無感覚での支払い)という名称で呼ばれている。すでに触れた“無人店舗”はもとより、高速道路の料金所や駐車場といったシーンでその兆候は見られる。ナンバープレート自体が支払いコードとなり、料金ゲートで車を長く停止させることなく通り抜けられる仕組みが今、全国に普及しようとしているのだ※5。

 大きなパラダイムシフトの波が押し寄せるなかで、中国の第三者決済ツールは今後どのような展開を見せるのだろうか。今後もその動向から目が離せない。

※4 その他、「摩拜単車(モバイク、Mobike)」のアプリ(v8.3.1以上)でブルートゥースによる解錠が可能になっていることも注目に値する。

※5 「システムの導入により、通常10秒を必要とした出入庫が、平均2秒まで短縮された」(2018年12月20日「人民日報」)と報じられており、交通渋滞や駐車難の解消に一役買っている。

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この記事の著者

近藤 修一(コンドウ シュウイチ)

庫米科技(大連)有限公司 副総経理
静岡県出身、信州大学卒。1994年、上海に語学留学。1998年に現地パートナーらとともに日本人向けパソコン事業に携わる。2002年10月に中国全土でフリーペーパー事業を展開するメディア漫歩グループに入社。その後、『Whenever BizCHINA』(現名称)、『インサイトチャイナ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/03/25 14:00 https://markezine.jp/article/detail/30631

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