解約率10%を目指して
名刺管理サービスを手がけるSansanのカスタマーサクセスは、2008年にできたサービス部の取り組みをルーツとする。スマートフォンがなかった頃から、サービスを体験してもらい、利用を促してきた。その後、2012年に正式にカスタマーサクセス部が発足して以来、Sansanは「解約率10%」を達成するための基盤の整備を意識し、カスタマーサクセスに取り組んできたという。
Sansanのようにサブスクリプション収益で成り立つSaaSビジネスは、事業成長が外的要因に左右されにくいというメリットがある。しかしこのメリットを享受するには、解約を少なくすることが大前提となる。山田氏はFORCAS 代表取締役/ジャパンベンチャーリサーチ 代表取締役の佐久間衡氏の「解約率は成長の上限を決める」という言葉を引用し、解約率を抑えることの重要性を強調した。
佐久間氏の試算によれば、年間の解約率が3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%で30年間推移したと仮定した時、連続的に収益成長させるためには解約率が10%以下で推移しなくてはならないという。「この10%という数字の達成は難しい。しかし、その実現に向けた一連の活動がカスタマーサクセスであり、達成の見通しが立った時にマーケティング投資を行えば、事業成長を加速させることができる。カスタマーサクセスが先という順番を間違えてはならない」と山田氏は語る。
カスタマーサクセスの成熟度
Sansanのカスタマーサクセスを語る上で欠かせないのが、カスタマーサクセスプラットフォーム「Gainsight」の導入であった。Gainsightでは、アドビシステムズ、Box、シスコシステムズなどに代表される顧客データを分析し、カスタマーサクセスの成熟度を「Reactive」「Insights & Actions」「Outcomes」「Transformation」の4段階で整理している。同社の主張は、カスタマーサクセス組織の成熟度と利用継続率は比例するというものだ。
まず、純粋な利用継続率であるGRR(Gross Retention Rate)を比較すると、各段階の平均はそれぞれ80%、87%、89%、93%であり、先述の10%の解約率という数字と合わせると、目指すべきステージは「Outcomes」であることがわかる。さらに、アップセルとクロスセルの売り上げを含む利用継続率であるNRR(Net Retention Rate)の平均を比較すると、それぞれ92%、106%、113%、125%だという。これは、成長路線の「Outcomes」を達成するためにアップセルもしくはクロスセルで24%の上乗せが必要になることを意味する。
山田氏によれば、Sansanは既に「Outcomes」ステージに達しており、組織体制を整備し、最終ステージの「Transformation」に向かおうとしているという。そのSansanのカスタマーサクセスの組織構成は以下の通りである。
・CSM:顧客をフォローするカスタマーサクセスマネージャーが所属する
・Training & Community:サービス購入後のトレーニングや既存顧客同士の情報交換のためのコミュニティ設計を行う
・Product Feedback:顧客からの意見をプロダクトにフィードバックする
・Technology & Marketing:テクノロジーの基盤を整え、CSMとRenewal Salesをフォローする
・Renewal Sales:解約防止や収益拡大をコントロールする