社内理解のコツは、適切な期間設定とキャッシュポイントの提示

株式会社才流 代表取締役 栗原 康太氏
株式会社クマベイス 代表取締役 CEO 田中 森士氏
MarkeZine編集部(以下、MZ):このセッションではBtoBのコンテンツマーケティングをテーマに、会場の参加者からの質問をオンラインで募集しながら進めていきます。登壇者の皆さん、初めに自己紹介をお願いします。
枌谷:私はベイジというBtoBのお客様を中心としたWeb制作会社を経営しています。自社のマーケティングにもコンテンツを活用していて、三つのオウンドメディアとnoteでコンテンツを発信しながら、配信ルートとしてTwitter、Facebookも利用しています。
栗原:才流の栗原と申します。私はIT系の上場企業で2008年頃からBtoBコンテンツマーケティングに取り組んできました。その後会社を立ち上げ、現在はBtoB企業のマーケティングを支援しています。
田中:クマベイスという会社でBtoBコンテンツマーケティングのコンサルティングやコンテンツ制作の支援をしております。ライターとしても活動しているほか、マーケティングに関する海外のカンファレンスには年に2、3回足を運んでいます。
MZ:早速、最初の質問を取り上げたいと思います。コンテンツマーケティングの重要性を社内に理解してもらい、予算や時間を確保するにはどうしたら良いでしょうか。
枌谷:コンテンツマーケティングのROIを事前に見極めるのは難しいですよね。特に活動初期はほとんど成果が出ない。そのため経営層や予算を握っている方がオウンドメディアに前向きでない場合は、「コンテンツを活用するのはマーケティングの基本である」ことを啓蒙していくプロセスが必要になるのかな、と思います。
栗原:会社によっては、広告よりも資産化できるコンテンツを好む経営者もいて、そういう場合は非常に進めやすいですね。一つご紹介したいのがWACULさんのWebサイトで、自社のオウンドメディアの成果をグラフで表現しています。

オウンドメディアをやるかどうかの議論になった時、私はこのグラフを使って、「3ヵ月ではほとんど成果が出ませんが、1年後には成果が出ます」とお話しするようにしています。短期で成果が出る施策ではないため、効果測定の期間を適切に設けることが大切です。
田中:米国ではコンテンツマーケティングの研究が進んでいて、「どのように上司を説得するか」など社内コミュニケーションに関する議論も活発です。ここに参考になる視点が二つあって、一つは無理やりでもいいのでROIを出すということ。もう一つは、キャッシュポイントを最初からたくさん設定しておくことです。
お金に関してすぐに思いつくのはコンバージョンですよね。でもそれだけではなく、コンテンツをまとめれば書籍を出版できるかもしれませんし、オフラインのイベントにもつながるかもしれません。
さらに、社内に編集チームを作ることによって、これまで外注していたコンテンツ制作を社内で行えるようになったり、チームに一体感が生まれたりする可能性もあります。獲得できるアセットを伝えることで、説得もスムーズになるのではないでしょうか。
兼務で回す場合は「仕事を増やさずコンテンツを出す」工夫が必須

MZ:無事に社内の承認を得た後は、運営体制を構築していく必要がありますが、「経営者はどの程度コミットするべきか」「担当者として適任なのはどんな人か」といった疑問が寄せられています。
栗原:経営層のコミットメントに関しては、会社の規模によってまったく違います。スタートアップのフェーズですと、経営上、顧客獲得の優先順位が高いので、一緒にプロジェクトに入っていただいて、隔週の編集会議などにも参加していただくとうまくいくケースが多いですね。
上場前後の会社ですと、経営層が直接コミットするより、適任者を採用してくれたり、他の部署から異動させてくれたりという形でご協力いただく場合が多いです。
枌谷:まず、自社で運用する場合、オウンドメディアを専任で担当させるか、本業と兼務させるかという問題があると思いますが、兼務の場合、いかに全体の仕事量を増やさずにコンテンツを作り出していくかという視点が大事だと思います。
以前、自社のオウンドメディアとして用語集を作っていたことがあるのですが、半年もせず更新できなくなってしまいました。専任メンバーを置かずに兼務で運営し、週の更新本数をルール化して運用しようとしたところ、本業も含めて仕事量が増えて回らなくなってしまったんです。
兼務型の運営方針で参考になるのは、クラスメソッドさんの「Developers.IO」というメディアで、社員の方が業務で学んだことをコンテンツとしてどんどん外に出しています。平均で1日に20件ほど記事が更新されていて、月間でも100万PV以上のトラフィックがあり、採用と顧客獲得の両方に貢献しているようです。
田中:担当者として適任なのは、情熱と思いやりがある人だと思います。情熱だけだと押しつけがましくなってしまうので、お客さんの立場に立つことができたり、チーム全体へ気配りできたりするメンバーがいると良いですね。
テクニカルな面では、コンテンツに詳しい人やライティングの技術がある人が書いたほうがいい。米国では新聞社の倒産が相次いでいて、そこからジャーナリストを引き抜いてコンテンツマーケターとしてトレーニングするというメソッドが確立されつつありますが、今後は日本でも、こうした動きが見られるようになるのではないかと思います。