デサントの顧客とのつながりを強化するオムニチャネル施策
最初のセッションは「データ・ドリブン」をテーマに、スポーツメーカーのデサントから溝口智昭氏と古井戸一郎氏が登壇。同社は量販店や百貨店などでの販売のほか、直営店やECといった自主管理売り場を持っている。現在、自主管理売り場における売り上げは全体の30%を占めているが、それを40~50%へ拡大することを目指しているという。4月には、2022年3月までに主力ブランド「デサント」の直営店を現在の倍の20店を目指すこと、直営店とECでの在庫を一元管理して融合しオムニチャネル化を推進していくことを発表。そのためには、エンドユーザーとの関係構築もこれまで以上に重要になってくる。
溝口氏は、CRMの一環として直営店とEC共通の会員サービスを見直していると話す。デサントでは、全部で14のブランドを運営している。それぞれに顧客層は異なるが、これまでは会員全体に同一の情報提供しかしていなかった。しかし、直営店やECでの購入データ、同社が主催するスポーツイベントへの参加といった行動履歴をCDPで管理することで会員への情報を最適化して出し分け、ファン化・購買促進をしていくという。
古井戸氏は、2020年までにアプリの導入を計画しているとも語る。たとえば直営店でチェックインするとポイントやクーポンがもらえる仕組みにし、そのアクションによって店員に顧客の購買データなどの情報が送られ、顧客にマッチした商品を薦めたり、接客時のトークに活かすなどしていく。直営店の魅力向上には、限定商品を販売するなどの「モノ」と合わせて、そうしたデータを基に接客の質を上げる「コト」も重要だ。
また、直営店とECのオムニチャネル化では、「せっかく来店したのに希望の色やサイズの在庫がなかった」という店舗で起こりがちな課題も解決していく。たとえば赤、青、緑の3色あるアイテムで、サイズがS、M、Lの3種類がある場合、直営店には赤のS、青のM、緑のLは必ず揃えておくようにすると、顧客は試着して自分に合うサイズを把握し、直接見ることで好みの色を判断できる。そして自身が欲しい色とサイズの組み合わせが直営店にない場合は店頭でオーダーし、ECから商品を発送する。そうすることで、直営店側でも在庫をたくさん抱えるという負担が軽減される。こうした利便性の向上で、顧客のロイヤリティを高めていく考えだ。
生活者と企業が安心してデータ活用できるために
次に登壇したのは、DataCurrent取締役社長の多田哲郎氏。2019年6月3日にサイバー・コミュニケーションズ(以下、CCI)が設立した、生活者主体の考え方に基づくデータ活用を推進する専門会社がDataCurrentだ。
昨今では、多くの企業がデータを活用しマーケティングの高度化を推し進めている。しかし、データを収集する工程において、適切な方法で利用許諾を得て、適切な環境で分類・管理できているかという問題がある。また、企業自体がデータの共有範囲を把握し、適切な手順で施策に活用できているかなど、データの取り扱いに関しては様々な課題を抱えている状況だ。同社では、データ提供元情報を開示して連携可能なオーディエンスデータの他に、匿名化されたオーディエンスデータを持ち、それを独自に解析した情報を提供している。
多田氏は、データ運用基盤の企画設計・開発からマーケティング活動における運用支援までを行うデータコンサルティング事業と、個人情報を含む顧客データを取り扱うプロモーションコンサルティング事業を通し、企業のデータを基軸としたビジネスの拡大に貢献していくと抱負を述べた。
デカビタCのTikTokを活用した若年層への「全力」アプローチ
サントリーフーズが販売する炭酸飲料「デカビタC」は2019年2月のリニューアルにあたり、高校生・大学生をターゲットにしたキャンペーンを展開した。その施策について、「若年層に受け入れられるコミュニケーション」をテーマに宣伝担当であるサントリーコミュニケーションズの小林真由美氏、同キャンペーンを手がけたCCIの加藤雅康氏が壇上で語った。
若年層は多くの情報が氾濫する現代生活の中で、自分向けと感じる情報のみを無意識下で取捨選択する傾向がある。そうした層へのコミュニケーションの勝ちパターンを模索していったと小林氏は話す。
コミュニケーション設計にあたり、単純にテレビCMを配信するのではなく、若年層に「おもしろい!」「参加したい!」といった共感を得られるコンテンツを多く投下していくことで、ブランドのファンを増やすことを第一の目的と設定。その起点として、若年層ユーザーの多いTikTokを活用した。そのTikTokの中で鉄板コンテンツとして若者に浸透していた「全力」をコミュニケーションワードとして、全体の施策を組み立てていった。具体的な施策としては、2月末のリニューアル発売を前に、若年層にとって非常に大きなモーメントである「バレンタイン」をテーマにした「#全力告白」というハッシュタグチャレンジをTikTokで実施。テレビCMでも同じ楽曲を使用することで、ダブルスクリーンに慣れテレビを専念的に視聴しない若年層にも気に留めてもらえる仕掛けを施した。また、若年層を主役とする番組「全力TV」をAbemaTVで制作・放送し、SNS媒体でダイジェスト動画を配信。単純な広告ではなく、若年層向けのコンテンツを多数制作することで、ブランドのファンを育成することを狙った。
結果として、TikTokではバレンタインのモーメントを捉えた楽曲が若年層にヒットし、著名インフルエンサーがオーガニックで動画投稿するなど大きな盛り上がりを見せ、動画再生数は1,845万回、動画投稿数は4,281回を記録。AbemaTVの視聴数も目標を上回り、売り上げも前年を超えたという。
加藤氏によると、動画投稿キャンペーンはハードルが高いと思われがちだが、TikTokは投稿を簡単に促すことができ、エンゲージメントを多く獲得できるメディアだという。若者の目線に合わせたフォーマット、そして「告白」というシーズナルにあった展開が結果につながったのだろうと分析した。
ファンケルのCRMとECモールでの顧客獲得戦略
無添加化粧品や健康食品を主力とするファンケルは、1997年8月とインターネット黎明期からECでの販売を行ってきた。2017年にカタログ通販とECの部門を統一する組織変更を行い、MAなどのデジタルツールを早くから導入しCRMを推進している。そんなファンケルが実践するECにおけるCRM戦略や施策について、「ブランド・ロイヤルティ」をテーマに同社の河内達也氏と長谷川敬晃氏、CCIの宇陀章二氏が語った。
販売チャネルは自社ECである「ファンケルオンライン」とAmazonや楽天市場などのECモールに大別できる。前者は、ただ販売するだけでなく、世の中の「不」を解消していくという同社の理念や商品の魅力、開発者の想いなどを伝え、ブランディングしていく場としても位置付けられている。そうして、顧客との絆を作り、商品だけではなくファンケル自体のファン=ファンケラーを醸成していくのだ。
具体的には、MAツールを導入し、たとえば購入後の顧客に出すメルマガについても、お薦め商品の紹介だけではなく、「製品へのこだわり」や「いかに信頼できる会社か」を盛り込んだ情報を送ることで、ロイヤリティを高めている。
一方ECモールは、自社ECでは接点を持てない顧客を獲得するための場と位置付けている。2010年2月にスタートしたYahoo!ショッピングを皮切りに、楽天市場、Amazon、LOHACOで出店。実はECモール出店の検討からオープンまでに2年を要している。苦労したのは、これまで接点を持ちにくかった顧客へ販路を拡げる為とはいえ、自社ECでの活動や、独自のCRMを推進してきた自社のスタッフたちを説得し、社内では異文化であるECモールを受け入れてもらうことだった。
ECモールは自社ECに比べて購入者の継続性が低い、独自アルゴリズムがあるため自社ECでは人気の商品もECモールでは検索上位に表示させることが難しく、売り上げが伸びづらい、特にAmazonなどはユーザー軸での購買データ取得が困難でデータ活用ができない、などの課題があったという。
とはいえ、特にEC市場でのシェアが年々増えているAmazonでの取り組みには注力している。CCIは、Amazon DSPの活用を提案。化粧品カテゴリーの興味関心層には広告を配信することで集客につなげ、化粧品カテゴリーの閲覧層と購買層には広告で誘導、Amazon内リターゲティングで購入へという設計を行った。その結果、ROAS・新規率ともに大幅に増加という成果を上げた。
資生堂ジャパン✕朝日新聞社が語る「届く広告」
「ブランド・ロイヤルティ」をテーマにした最後のセッションは、資生堂ジャパン/日本アドバタイザーズ協会 常務理事の小出誠氏、朝日新聞社の宮崎伸夫氏、CCIの吉田大樹氏が登壇。現在のインターネット広告の問題点とその対策について語った。
小出氏によると、テレビや雑誌・新聞ではどういったところに広告が掲載されるか、対向面に競合の広告が入っていないかなどを広告主である企業が気にするのは当然のことだったが、インターネットでの運用型広告ではどの枠に出稿されるかわからないことに危機感が薄いという。生活者が不快に感じるメディアに広告が表示されてしまった場合、投資したにも関わらず企業価値を落とすというリスクがある。実際に資生堂では、ヘイトまとめサイトに配信されてしまい、Twitterでそのことが拡散されてしまうという出来事があった。
しかしながら、『デジタル広告における意識・実態調査』によると、広告配信をコントロールする「アドベリフィケーション」について、広告主や広告会社の3割以上が言葉自体を知らないという結果となっている。特に1億円規模未満の広告主に限ると、6割が知らないという。「ブランドセーフティ」「アドフラウド」「ビューアビリティ」についても、対応の必要性は感じつつもできていないという声が4割を占めている。
そうした対策として、ブラックリストとホワイトリスト、参加できるメディアと広告主をクリーンなところに限定したPMP、特定メディアの広告枠を買う純広告などが挙げられる。メディアを複数運営する朝日新聞社では、デジタル広告の審査強化、運用型広告のブラックリスト対応、国際基準のIAS導入、ビューアブル課金広告メニューの開発によって、こうした問題に積極的に対応している。また、自社で定めた「朝日新聞広告倫理網領」に基づき、グレーゾーンに当たる広告は新聞紙面への掲載基準より厳しくしているという。
吉田氏からは、問題あるインターネット広告への対策は、価値毀損のリスクを減らすだけではなく、広告効果の向上にもつながるというデータが紹介された。ブランドセーフティではないサイトの接触者に比べてブランドセーフティが保たれたサイトの接触者は、ブランド好意度が210%、興味関心度が250%、来店意向が280%上がったとのことだ。ブランドセーフティに配慮しての広告配信は、生活者へ広告を届けるためにも有効であると結論づけられた。そして、インターネット広告を取り巻く諸問題については引き続き業界全体で取り組んでいくべきと締め括った。