OOHで重視したのは「写真になったときにどう映るか」
――そうしてできあがったのが「社員クチコミ図書館」だったのですね。クリエイティブについて、こだわった点を教えてください。
北野:今回は「写真になったときにどう映るか」だけをイメージしました。どの場所から撮っても、これがどんなものなのかわかるようになっている。鮮やかなブルーも写真映えや拡散を狙ったものです。

人を呼び込むための工夫もあちこちに仕込んでいます。たとえばこのクチコミ本は、「持って帰ることができない」仕掛けにしました。なぜかというと、来ていただいた方にも、クリエイティブに入ってもらうため。人が立ち止まって読んでいるところ、人だかりができているところが撮られて拡散されると、それでまた人が来る。タピオカの行列があると気になってしまうのと、同じ構造ですね。
また本の表紙には、手に取ったときにきらっと光るラインを入れています。これは『転職の思考法』を作った時の経験が活きていて、デジタルでなんでも読める時代に本を読んでもらうには、「わざわざ手に取る必要性」「手に取った時の嬉しさ」が必要だと感じていました。

――細部にも徹底的にこだわったのですね。
北野:はい。かなりこだわっています。こうした仕掛けには当然お金がかかり、資金のないスタートアップにとって判断が難しいものですが、私たちは「今後も明確にアセットとして残るかどうか」を判断軸としました。この「クチコミ本」は一度作ったら今後も様々な場面で使えますよね。限られた予算で広告を展開するには、その後もバランスシートに載せられるか、という観点が重要だと思います。
ちなみに社員クチコミ図書館のKPIは、来場者数とテレビ取材を呼び込むこと。実績は、一週間の開催期間で約32,000人に来ていただき、本を手に取ってくれた人も約30,000人という結果になりました。また、SNS映えという意味では、約1,500人が写真を撮ってくれました。
バズるコピーには「論理性」と「感情」が同居している
――「ずっと『ブラック』だと勘違いしていてすみません…!」「30代で1千万は、夢ではなく現実だった」など、電車内などで展開していた広告クリエイティブも、SNSで話題になっていました。どのような狙いで制作されたのでしょうか。


北野:このクリエイティブで重視したのは「論理性と感情の両方を表現できるか」ということです。コンバージョンにつなげるには人の心を動かすことが必要なので、広告表現は一般的にエモーショナルなものが多いですよね。
しかし「OpenWork」はデータや客観性を重視したプラットフォームを目指していて、「エモいだけの広告」では差別化ができない。そのため広告クリエイティブでは、論理性を示しつつ、それを見たときの人間の感情も表現することで、サービスが提供するUXを体験してもらおうとしたのです。
――確かにどのクリエイティブも、スマートフォンの画面でデータを示し、それを見たときの感情をコピーで示す仕掛けになっていますね。
ディフェンスとなるwhyで炎上を防ぐ

――広告には別のパターンも用意されていて、こちらは「企業のすべてを、オープンに。」「『やりがい』をオープンに。」など、メッセージ性の強いコピーが載せられていますね。
北野:こちらのパターンはどちらかというと「社名変更」の背景を説明するもので、よく読まれるもの、バズるものは「普遍性」と「時代性」をもっているという考えに基づいて用意しました。
まず、物事がオープンになることは多くの場面で良いことだと考えられていて、普遍性がある。そして現在は働き方改革が叫ばれていて、このままではだめだよねという時代性がある。これらの要素を、クリエイティブに落とし込んだのです。
――時代性のあるトピックに絡めて表現すると大きな注目が集まる分、炎上の可能性もあると思うのですが……。
北野:防ぎ方の一つは、“why”をしっかり語ること。クチコミ図書館では、文庫本の「はじめに」に、「なぜこの企画をやっているのか」「どんな世界観を作りたいと思っているのか」を示しています。
この“why”が理解されないまま拡散され、“how”の部分だけが独り歩きすると、炎上してしまう。ほとんどの人は「はじめに」なんて読まないかもしれませんが、ディフェンスを置いておくのは大事なことです。あとで説明できますし、良識あるユーザーがディフェンスしてくれますので。
ただ、理由や理想論だけを語ってもおもしろくないので、気になって、のぞき見したくなるような要素も含めることがコツです。拡散され、みんなが見てくれるけれど燃え切らないというコンテンツには、その両方が含まれています。