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テレビの価値をいかに可視化していくか 個人視聴率へ全面移行した日本テレビの歩み

 7月23日(火)、MarkeZine編集部では識者を招いて業界動向を解説する「MarkeZine Trend Seminar vol.2」を開催した。今回のテーマは「テレビの向かう先」。テレビを取り巻く環境は大きく変化しているが、その先にはどんな未来が待っているのか。日本テレビで編成局編成部担当部長を務める高谷和男氏と、クリエイティブディレクターとしてテレビを含むメディア戦略を手がける小霜和也氏に語ってもらった。

世帯視聴率から個人視聴率へ

―― 定期誌『MarkeZine』でもたびたび、テレビというメディアの価値や視聴データの変遷について取り上げてきましたが、長くテレビ業界で仕事をされてきた高谷さんと小霜さんにとって、最近の変化を象徴するような出来事はありましたか?

高谷:日本テレビでは、2019年からそれまでKPIとしていた世帯視聴率を、より正確に誰にどれくらい視聴されているかがわかる個人視聴率に全面的に移行させたことが最大の変化でした。一般に言われる視聴率とは世帯視聴率のことで、世帯単位での視聴率が計測されています。しかし、世帯人数はばらばらですから具体的に何人に観られているのかはわかりません。

 1人暮らしや2人暮らしの世帯も増えていますし、3人以上の世帯が多かった時代に設計された世帯視聴率のままテレビの価値を計るだけでは十分ではありません。どういう人にどれくらい視聴されているのかをテレビ局自身が自己分析して、それを広告主に訴求しなければならない時代ですし、作り手も生活者をしっかりイメージして番組作りを進めることが重要になります。

高谷和男氏:日本テレビ放送網株式会社 編成局編成部担当部長

――KPIの移行について、社内の反応はどうでしたか?

高谷:個人視聴率はどうしても世帯視聴率より数値が少なく出ます。そのため、最初は動揺があったと思います。ただ、個人視聴率で、誰に観てもらっているかの実態を評価しているので、今では完全に浸透しています

小霜:いろんなハードルはあるものの、いずれ民放もネット同時配信を始める時が来ると思っています。僕はいまテレビとウェブの共通指標作りに取り組んでいるのですが、その理由は、その時に先んじてテレビとウェブの共通指標が用意できていなければ広告ビジネスは大混乱をきたすからです。

 ウェブはサイトのPVや動画の視聴回数など、データとして具体的な数がわかります。一方で、テレビの世帯視聴率では数がわかりません。だから誰もまだ成し遂げていないのですが、僕ができると確信したのは、日本テレビが個人視聴率に移行したからです。そこをベースにすれば「数」がわかります。

 個人視聴率は世帯視聴率よりも低く出がちなので、それだけ見ると「テレビは観られていないんだ」という印象を増幅しかねません。それでもやらなくてはいけないと踏み込んだのは本当に英断だったと思います。

小霜和也氏:ノープロブレム合同会社/小霜オフィス、
クリエイティブディレクター/コピーライター

――「若者のテレビ離れ」とよく言われますが、実感としてはどうでしょうか。

小霜:たしかに高齢層ほどテレビを視聴している傾向はありますが、リーチで言えば若年層にもしっかり届いています。20代、30代向けのゲームアプリのCMを流すと、ちゃんとダウンロード数が増えるんですね。共通指標を作る中でシミュレーションしたところ、一個人あたりの露出単価で言うとテレビはウェブのほぼ2分の1ぐらいでした。まだまだリーチメディアとして優位なのはテレビです。

――ただ、テレビCMを流せば売上にすぐつながるわけでもないと思います。今、どのようにテレビCMを活用するといいのでしょうか。

小霜:まず前提として、購買ファネルを考えてみましょう。「認知」にあたるトップファネルはテレビCMが強い。そして「刈り取り」にあたるボトムファネルはデジタルが得意なところです。ところが、その中間となる「自分事化」にあたるミドルファネルがメディア戦略から抜けていることが多いんですね。手法としては属性や嗜好でターゲティングが可能な動画広告ですが、これをテレビCMとうまく組み合わせると大きな成果が出ます。

小霜:僕はミドルファネルでクラスターに合わせた複数ウェブCMの運用を先に考え、その中の代表をテレビCMに、というやり方をよくしますが、昨対比150%とか200%とかの数字が出ます。これは以前日本テレビとやらせてもらったウェブ番宣プロジェクトが元になってます。

 コメディのようでもあり純愛のようでもありというドラマがあって、それならコメディ好きの人にはコメディに見える編集を、純愛好きには純愛に見える編集を、主演のタレントファンにはタレント推しで編集したウェブCMを露出したところ、事後調査でテレビCMとウェブCMの両方を観た人はテレビCMだけ観た人の2倍近くの割合で実際に番組を観ていたんです。これは他の業種でも使える、と思ったんですね。

高谷:ドラマなどコンテンツ自体は観ないと内容がわかりませんが、そこに誘導するための刺激を作らなければなりません。テレビを観ていない人にテレビで宣伝しても届きませんから、より多くの人に観てもらおうとするならミドルファネルの各層に合わせたPRが欠かせません

 そして、視聴後に拡散を担ってくれるファンの醸成が非常に重要となりますが、口コミを生むためのわざとらしい施策は効果的ではありません。ターゲットに満足してもらえるコンテンツを作り続けることが必要です。たとえば、日本テレビでは2015年から日曜日の22時30分にドラマ枠を設けたんですが、週末のこの時間帯に30分スタートのドラマを編成することは大きな挑戦でした。実際にチャレンジしてみて、世帯視聴率は芳しくなかったものの、ターゲットにしていた若年層の個人視聴率がしっかり取れるようになってきました。

 若年層に視聴してもらえる時間帯ということがわかったので、彼らに満足してもらえるようにじっくり腰を据えてコンテンツを制作し、配信も強化していきました。その結果、放送を重ねるごとに徐々に口コミが増えていき、すると今度はウェブ上で記事が生成されるようになります。こうして宣伝が広がり、視聴率がどんどん右肩上がりに成長していきます。粘り強くテレビとウェブの双方でターゲットに訴求し続けることで視聴者は増えていくんです。

 それが可能だったのは、やはり世帯視聴率ではなく個人視聴率を見ていたからです。SNS広告もエンゲージメント率を追いかけて改善していきました。具体的なデータを計測してきたからこそ、この結果につながったと思います。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/08/21 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31641

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