ECモールを購買とメディアの両面から捉える
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、生井さんの担当業務を教えてください。
生井:私は、花王でECマーケティングのマネージャーを担当しています。ECと言ってもAmazonや楽天、LOHACOといったECモールにおける、花王商品の売上最大化をミッションとしています。
生井:ECは購買チャネルのひとつですが、いまや、商品を訴求するメディアとしての役割も持っています。この購買とメディアの両面から考えるマーケティングを、私はECショッパーマーケティングと呼んでいます。ECショッパーマーケティングには、ブランドマーケティングを把握し、広告から購買までのお客様行動を理解した設計が必要です。
MZ:花王では、ECをどのように位置づけているのでしょうか。
生井:世の中のEC化に合わせて、生活消費財のEC化率も高まり、その割合は15%程度と言われています。一方、花王商品のEC化率はまだまだ伸びしろがある状況で、これからまだまだチャンスがあると思っています。
しかし、商品カテゴリー別に見ていくと、ベビー用オムツや大人用オムツ、ペットケア商品のEC化率が高まっていることがわかりました。店頭で購入しづらい、重くてかさばるカテゴリーは成長の伸びしろがあると考え、ECモール内におけるマーケティングに積極的に取り組んでいます。
商品レビューを参考にクリエイティブを最適化
MZ:では、ECショッパーマーケティングにどのようにして取り組んでいるのか、教えてください。
生井:前提として、広告出稿に頼らない集客の仕組みを整えています。広告は、商品やキャンペーンにより投資金額が限られています。つまり、広告予算がないからECモールへ集客できないという状態は避けなければなりません。
そのため、花王のECショッパーマーケティングは、ECモールへ流入したお客様に対し、商品との接点を増やすことを最大のミッションとしています。まずは、PV数と購入の個数、売上、コンバージョンレートを指標に、購入ページの商品情報の最適化を進めています。
MZ:商品情報の最適化とは、具体的にどのようなことを行っているんですか。
生井:まず優先しているのは、売場となる商品ページの充実です。現在、スマートフォンでのEC利用は当たり前になりつつあります。そのような環境において、商品ページは商品を選ぶときの重要な参考情報です。考え方としては、店頭のPOPなどの販促物に近いですね。クリエイティブはもちろん、その並び順も購買に大きく影響することがわかっています。
MZ:確かに、ECでは商品画像をよく見て購入しています。
生井:そうですよね。実は、マスやデジタルでプロモーションを行い、ECへ集客できているのに、売上に結びつかないという課題がありました。その理由に、商品ページにある画像が商品を撮影しただけの画像だったからではないか、という仮説があるのです。商品特徴がわからず、離脱につながっていた可能性を考え、商品ページの改善に努めています。
その改善策として重視しているのは、お客様視点の商品情報を商品ページに反映することです。たとえば、泡歯みがきタイプのピュオーラの場合、商品ページやバナーには、「研磨剤不使用」と記載しています。これは、元々マスコミュニケーションで大きく訴求していなかった商品要素ですが、「研磨剤が入っていないため、電動歯ブラシで磨いても歯を傷めない」というお客様の口コミを参考に、クリエイティブを変更しました。
MZ:消費者の声を、クリエイティブに反映したんですね。
生井:口コミを読み込み、お客様視点のキーワードを見つけ、クリエイティブに活かしていますね。ピュオーラに関しては、量販店の電動歯ブラシの売り場に、販促物を置いていただく施策にもつながりました。
その他、あるヘアケア商品では、商品ページの画像のテキストを大きくして視認性を高めたり、商品特性である香りを訴求するため、果物の絵を添えたりすることで、コンバージョンレートが上がった事例もあります。
このように重要な商品ページですから、社内の制作体制の構築も欠かせません。たとえば、ECでよく売れる商品のひとつに重いケース品があります。その場合、お客様が求めているのは、段ボールの画像ではなく、どのような中身かがわかる画像です。社内の連携を高め、一体となってスピーディーに動けるように心がけています。