さらけ出す覚悟を持てるか
中山:「ストーリーに焦点を当てる」のに、業界も企業規模も関係ないですよね?
枌谷:関係ないと思います。できないとしたら、過剰なエビデンス主義というか、「企業が主観で書いてはいけない」という固定観念があるから。
極論かもしれませんが、企業も「思いきり主観混じりで書く」でいいと私は思います。間違った情報を伝えるのは論外ですが、「こだわり」とか「想い」とか、間違っているとか正しいとか言えない領域も、ビジネスの中にはたくさんありますよね?
心配であれば、「我々の主観ですが」「我々が事業をやった経験の範囲ですが」と前置きすればなんとでもなる。人もしくは会社なりのこだわっていること、意識していること、それを直接的に書けば書くほど、個性は出やすいです。
中山:それはブログやオウンドメディア限定のことですか? コーポレートサイトだと客観性重視にならざるを得ない気もしますが。
枌谷:コーポレートサイトでも、「こだわり」や「想い」はどんどん書いていいと思いますよ。

中山:たとえばコーヒー豆の卸会社があったとして、焙煎はこうこだわっています、他社がやっていないことをやっています、とか?
枌谷:いや、それは視点がまだ「機能比較」っぽいです。そうではなく、
・私はなぜコーヒー卸しのビジネスをやろうと考えたのか
・コーヒー豆は、私はこうあるべきだと思っている
・おいしいコーヒー豆とは、こういうコーヒー豆のことだ
とか。
そうじゃないって反論する人がいても構わない。「私はこう思う。なぜなら私はこういう経験をしてきたからだ。その考えに基づいて、こういうコーヒー豆を卸している……」と語れば、競合と同じ価格帯で似たような味・品質であったとしても、ストーリーは他社と変わってきます。
最終的なプロダクトは似ていても、根っこが違う。「こだわり」「想い」「哲学」「思想」をいかに織り込んで露出していくかが、コンテンツに独自性を持たせるポイントではないでしょうか。
中山:「コーポレートサイトはファクトしか述べてはならない」なんてルールはない、と。
枌谷:IR情報や会社概要は淡々としたデータになるでしょうが、ミッション・ビジョン、譲れないバリュー等は、ガンガン主観で書くべきだと思います。主観で書かないと、用語集とかWikipediaみたいな無機質なコンテンツになってしまいます。
中山:つまるところ、センスやコピーライティングの有無ではなくて、自社が持つ素材に気付けるかどうか……ですね。
枌谷:そして、さらけ出す覚悟を持つ。「誤解を招きそうだからやめよう」「関係各所に配慮して控えよう」ってやると独自性は希薄になります。「何かあっても自分が責任取るよ」って言い切れる立場の人が思い切ってコンテンツを書くと、おのずと独自性って備わってくると思います。