35~45歳前後を境に変わる、働き方への価値観
共同印刷では、多様化する女性の価値観をとらえるための次世代マーケティングコンソーシアム「WIC@LAB(ウィカラボ)」の立ち上げを準備している。その中心にあるのが、女性の多様な価値観を立体的・多面的にとらえることができるデータプラットフォーム「ペルソナキューブ」だ。セッションでは、ペルソナキューブのベースとなる10,000人の女性への意識調査から未来の女性インサイトが紹介された。
意識調査はWebアンケートで行われ、ライフステージをとられるために年代を5歳刻みで分類した。アンケートの全体構造は、価値観の中核となる本質的な部分を問う質問と、その価値観が表層的に行動に表れる部分を問う質問の2つに分けられている。この表層的な部分と中核的な部分を掛け合わせることでインサイトを探る。
はじめに吉丸氏は、女性の行動変化について以下の3つの仮説を立てた。
(1)働き方の多様化による行動変化
→働く ≠ 通勤、仕事、お金を稼ぐ まったく新しい概念としての「働く」
(2)スマホによる行動変化
→スマホとの距離感が狭くなると自分幸福度への欲求が高くなる?
(3)「未来の私」による行動変化
→女性は“3~5年後の未来”のために行動する
これらについて、意識調査の結果と照らし合わせながら吉丸氏の分析が語られた。
働き方の多様化による行動変化
まず1つ目は「働き方の多様化による行動変化」について。吉丸氏は次のように説明する。
「世代別に職種を尋ねると(割付なしで自然発生)、興味深いことに、一般会社員と会社役員・経営者、専業主婦の3つが35〜45歳の間で、見事にクロスしているのがわかります。働き方に対する価値観が35〜45歳前後を境にまったく変化していることが読み取れます」(吉丸氏)
「35〜45歳というのは、まさに『アラフォークライシス』と呼ばれる就職氷河期を経験した世代。就職したくても、就職できない人たちが、自らの職業やキャリアをどのようにして形成していくのかを悩んだ世代なのでしょう」(吉丸氏)
従来の女性の働き方意識調査を見るとき、パート・アルバイトは対象から外されることが多い。しかし吉丸氏は、すべての雇用形態にフォーカスし、調査することを重要視した。
次のグラフは、一般会社員とパート・アルバイトに対し、「どのような業務をしていますか」「週何時間働いていますか」というアンケートの結果だ。
この結果から、事務系スタッフでは、週40時間勤務と時短勤務や週20時間未満が半々で構成されていることや、企画・管理・営業職やITエンジニアなどの職種では、週40時間以上勤務の割合が多いことが読み取れる。
「業務によって働き方に変化があることがよくわかるデータです。今後更に週の勤務時間は次第に短くなり、その時間は副業に充てられるのではないでしょうか」(吉丸氏)
人からの評価を気にしながら、自分がどう幸せになるか
2つ目の女性インサイト仮説は、「スマホとの距離感が女性の行動変化につながっている」ということ。「スマホにより、人間関係や国境がボーダレスになっている現代世界。スマホによる行動変化は、今後より加速していくでしょう」と、吉丸氏。
世代別でスマホの距離感についてとったアンケートの結果がこちらだ。
「トイレ、あるいはお風呂にもスマホを持って入る」ことは、20代後半〜30代前半までに多いことが見受けられる。ただ、意外にも「スマホは周囲との連絡手段」と割り切っている女性は、世代に関係なく一定数いるようだ。
続いて、世代別でスマホの距離感と幸せの価値観との関係性について。
幸せと考える基準については「結婚して子どもがいるのが標準的な幸せ」、美しさの基準は「見た目の美しさ、若々しさ、肌がきれい」であると答える人は、スマホとの距離感が近い。対して結婚生活に対しての関心が薄く、「無理せずあるがままのスタイル」な人は、スマホと距離を取っていることがわかる。
「女性の外部評価への関心とスマホとの距離感には関係性があります。スマホとの距離感が短くなるにつれて、『人からの評価を気にしながら、自分がどう幸せになるか』を追求する女性が、今後増えていくことでしょう」(吉丸氏)
女性は「未来の私」に投資するという仮説
最後の女性インサイト仮説は、「女性は『未来の私』に投資する」ということ。
「ライフステージの変化が少ない男性にとっての“未来”に比べ、女性にとっての“未来”は3〜5年後を指していることが多い。ファッションやスキンケア、食費などの消費行動と女性の将来にビジョンの間にはなにかしらの関係性があるはずです」(吉丸氏)
次のグラフは、「3~5年後のあなたの置かれているシーンは?」という設問と、「ファッションにかける月額費用は? 」という設問の結果をクロスしたものだ。
ここから、3~5年後は「仕事に没頭」という人と「子どもの教育後半戦突入」という人では、ファッションにかける月額費用が真逆ということがわかった。
仕事に没頭する女性のファッションにかける費用は高め。対して、子どもが教育後半戦に突入した女性は、5000円未満の人が60%を超える。また、「3〜5年後の私なんて想像できない」という女性は、自分への投資が低い。ファッション以外でも、明確なビジョンがない女性ほど消極的な消費行動をとる傾向にあるのだという。
本音に迫る調査とは?
女性インサイト仮説を説き終えた吉丸氏は、会場に疑問を問いかけた。
「データを見るときに、インプットデータの背景まで見ていますか? アンケート結果で、『80%の人が良い』と言っている場合、それは果たして本音が出ていると言えるのでしょうか?」(吉丸氏)
一般的な意識調査のアウトプット例として吉丸氏が取り上げたのは、2016年に共同印刷が行った調査の設問と結果だ。吉丸氏曰く、これは“女性の本音に迫っていない調査”だったという。「ご家族の中であなたが頻繁に話や相談をし、ご自分の意識や考え方に影響を与える方は誰ですか」という問いに対し、「夫」という回答が特出している。
実はこの調査票の選択肢では「夫」が最初にあった。そのため、「『おそらく、質問者は“夫”と答えて欲しいのだろう、“夫”と答えておけば無難だろう』と女性はすぐ見抜きます。ですから、この調査では、“夫”と答えている割合が多かったのではないか」と、吉丸氏は分析する。
WIC@LABのリサーチでは、アンケートに慣れきってしまった女性が、「え、何これ?」と思うような調査票の作成を目指すという。「女性のホンネに迫ることのできる調査票の追究」がWIC@LABのポリシーだ。
その「女性のホンネに迫ることのできる調査票」について、吉丸氏は、「セクシーな調査票」とした。以下が今年、実際に実施した「セクシーな設問」の例である。恋愛結婚のパートナーについて尋ねている。
セクシーな設問は、様々な要素が入りつつ、かなり主観的な内容の文面となっている。「実際に私がこの立場に置かれたら……」と思わせるストーリーを立てて“セクシーな設問”は作られます」と、吉丸氏。もう一つのポイントは、みんながみんな「いいね!」をしない設問設計だという。あえて30%程度の賛成率を目指して設計しているそうだ。
データは人そのもの
吉丸氏はデータについて、「データは人そのもの。人の営みであり、考えであり、行動である」と定義した。
「『データは人そのもの』と考えたとき、共有するインターフェースはやはり、“人”、つまりペルソナであるべき。“人”という直感的なイメージならば、社内外の様々なレベル感の人と共有しやすいのではないでしょうか 」(吉丸氏)
その“人”に焦点を当て、ペルソナを主体としたデータプラットフォームが、WIC@LABが開発している「ペルソナキューブ」だ。ペルソナキューブでは、中心に4×4のペルソナ、左右にアンケート設問がパラメータとして並んでいる。簡単な操作で、ペルソナ別の女性の行動様式や購買パターンを分析することができる。アンケートデータ以外の様々な顧客に関するライフログデータを取り組み、進化するプラットフォームを目指している。タイアップキャンペーンや異業種間のブランドのタイアップ、ターゲット選定まで、幅広い用途での活用が考えられる。
サービスデザイン思考においても、ペルソナキューブは活躍を期待できるそうだ。これまでペルソナとカスタマージャーニーを作るためには行動観察やインタビュー、ブレストを繰り返さなければならず、数ヵ月もの時間を要する作業だった。吉丸氏は、ペルソナキューブによってその時間の短縮も期待できると説く。
「サービスデザイン思考において最も時間をかけるべきなのは、プロトタイプを作る部分だと考えます。ペルソナキューブでは、よりスピーディーに仮説と検証が行える」(吉丸氏)
WIC@LABの正式な募集開始は2019年10月から、ペルソナキューブの本格稼働は2020年4月の予定。セッションの最後に吉丸氏は、WIC@LABの構想と目指す世界を語り、セッションを結んだ。
「女性市場を捉えるために、異業種間を連携させるペルソナキューブの開発と研究を目指し、共同印刷はWIC@LABを立ち上げます。新たなマーケティング手法を様々な企業と共に開発、運用していくことが、WIC@LABの目指す世界です」(吉丸氏)