大きな課題がはらむ外部データの取り扱い方
外部データ活用の難しさについては、塚本氏は次のようにも語った。
「弊社でDMPを導入したところ、自社にある顧客データと外部データがなかなか紐付かず、費用対効果を考えると運用継続が難しいという結果になりました。その点で、CDPの機能の進化は期待半分、不安半分という気持ちです。BtoCにおいて個人データの扱いはGDPRのことがあって慎重にならざるを得ません。解釈がグレーゾーンの行為は避けて、安全に扱えるところで誤解を与えない活用をしたいです」(塚本氏)
一方で、「BtoB領域では?」という田島氏の問いかけに、市川氏はNTTコミュニケーションズが始めている取り組みを例に、次のように述べた。
「たとえば、“セキュリティソリューションを売りたい”と考えた時に、『セキュリティ関連記事を多く読んでいる企業ユーザー』のデータを提供するベンダーがあります。自社サイトには来ていないけれど、メディアサイトでセキュリティ関連記事を読む層の情報がわかるわけです。もしくは、『クロール技術であらゆる企業のIR情報を取得し、今年度ITに積極的に投資する企業』といったデータを提供するベンダーもいます。
法人マイナンバーを通じたデータのつなぎ合わせも可能な時代です。個人の特定はできませんが、自社データの中の法人データと外部データの法人マイナンバーとをつなぎ合わせれば、紐付くデータが出てきます」(市川氏)
マーケティングテクノロジーに期待するところ
昨今では、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施する企業も多い。新しいマーケティングテクノロジーを本格導入する前に、必要な検証を行うことだ。NTTコミュニケーションズ、日本航空ともにPoCに取り組むものの、そのKPI設計に課題があると語った。
「私の部署はWeb販売部ですので収益にKPIを置くことが多いのですがエンゲージメントに置くこともあります。他部署では、マイレージや新規入会数など様々です。複数の部署でPoCをやると、部署間のコンセンサスを得るのが難しくなるのが悩みの種です。であれば、外部の力を借りて調整していくしかないところです」(塚本氏)
「毎回、PoCを実施してから本格導入しています。ですが、どの項目を見るのか、どこまでの成果で本格導入とするか、KPI設計はいつも苦労しています。そもそもこれだけカオス状態の中でツールを選ぶこと自体が難しい。事業会社だけで判断するのには限界があり、然るべき幅広い知見を持った外部パートナーと組むのが必須です」(市川氏)
マーケティングテクノロジーに期待するところについて、市川氏は「BtoBのデジタルマーケティングは、主にプレセールス(見込み顧客)の獲得で商談を作ってきたけれど、導入後のアフターフォローにも活用したい」と語る。
「カスタマーサクセスにも技術を使いたいですね。弊社製品を導入したお客様がどれほど成功しているのか。成功していないならどこでどう詰まっているのか。導入したら終わりではなく、導入後のお客様への最適なアプローチとして応用していきたいと思います」(市川氏)
塚本氏からは、現代は「一人ひとりの顧客が力を持ち、メーカーが強かった時代から顧客がメーカーを選ぶ時代へと鮮明に変わった」と次のように語る。
「お客様がどこかに旅行に行きたいといったインテントデータ(顧客の興味を把握するための行動データ)に対して、デジタルツールを活用することでもっとアクティブに提案できるようになっていくのが望ましいですね。顧客志向で次の一手をどう打っていくかということに尽きます」(塚本氏)
最後に、今後の意気込みについて田島氏から求められると、市川氏は「日本企業がこれまで広告宣伝費として使っていた予算が、今後はマーケティング費という形になっていくでしょう。管轄部門も広告部門からマーケティング部門へと変わっていきます。CMOといったポストを設置し、その流れにきちんと向き合っていきたい」と、デジタルトランスフォーメーションへの抱負を述べた。塚本氏は「弊社の場合はOMOということが必然的にビジネスに紐付いています。デジタル、マーケティングテクノロジーの力でお客様により幸せを感じていただける、一歩先行くビジネスを作っていきたい」と締め括った。