モバイルペイメントで購買データの獲得狙う
中国ではモバイルペイメントの波に続いて、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)からスタートアップ企業まで多数のプレーヤーが、オンラインとオフラインを融合させた新しい小売の形を打ち出している。その先陣を切っている、開業1年で中国国内に2,000店舗を展開した「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」や、アリババグループが出資する生鮮スーパー「盒馬鮮生(Hema Fresh/フーマ―)」は、日本のメディアでも頻繁に取り上げられている。
環境の差はあるものの、日本で今後の発展が見込まれるOMOについて、中国に学ぶべき点は多いはずだ。今回のセッション「来るOMO時代、マーケターは何に備えるべきか? OMO先進国・中国の現状から、日本の未来を探る」では、コメ兵の藤原義昭氏を聞き手に、中国留学からメルカリ、メルペイを経て現在は上海でCRM支援を手掛ける游仁信息科技の家田昇悟氏が登壇。新小売が成立する前提とも言える、日中で異なるモバイルペイメント事情を踏まえ、その競争の次に波が来ているOMOをベースとする「新小売」と各プレーヤーの動き、さらにサプライヤーの改革について、順に解説された。
日常に浸透する「WeChat Pay」と「Alipay」
まず、中国におけるモバイルペイメント普及の理由としてよく語られる“偽札論”(中国は偽札が出回っているからキャッシュレスが浸透したという論)について、家田氏は現地生活者へのインタビューなどから「偽札だけでモバイルペイメントを語るのは非常にあやうい」と語る。日本には偽札がないから普及しない、と決めつけると本質を見誤る。「むしろ、QRコード決済の登場時に、現金を含めた通貨や決済手段のUXがどうだったかを把握すべき」と家田氏。
たとえば成人10万人あたりのATM数は、中国は日本の3分の2程度で、現金が著しく不便だとは言えない(※)。一方、現金以外の決済手段はあまり広がっていなかった(図1)。他にも法律の問題などから中国では個人間送金のハードルが低い、銀行口座との連携がUI/UX含めて簡単、といった点もモバイルペイメント普及の理由と考えられる。
現状、中国におけるモバイルペイメントは、テンセントが運営するSNS「WeChat」(現地名:微信/ウェイシン)を母体とする「WeChat Pay」と、アリババの「Alipay」が二強だが、この競争は決済サービスでは終わらない。日常的にどれだけ接触するかというアプリ起動回数、つまりトラフィック獲得が争われているのだ。
WeChatは“中国版LINE”と語られるが、実はLINEに加えてFacebookとメッセンジャー、Instagram、Twitterのすべてが集約しているイメージだという。そのため1日の接触回数も相当で、「店舗ではWeChatを見ながらレジに並び、順番が来たらペイメント画面に切り替える」(家田氏)という行動が起きている。
一方、当然Alipayは1日の起動回数はかなり劣るものの、WeChatが起動されていないとペイメントの想起が薄いWeChat Payに比べて「Alipay=決済」の紐付けは強固だ。