オフラインプロモーションのROIは可視化できないのか?
「タウンワーク」「フロム・エー ナビ」といった人材メディアの運営や、人材系のソリューション事業を展開するリクルートジョブズ。同社のマーケティング部門では、これらのメディアやソリューションを利用するカスタマーを集客するべく、認知からアクションに至るまでを一貫して行っている。
同社では現在、ダイレクトレスポンスの領域(流入から応募まで。上図の右側)では、アクション数と顧客獲得単価(CPA)をKPIとして設定し、ブランディング活動(上図の左側)の領域では、アクションと相関のあるKPIを設定している。
このような仕組みになった背景には、「ROIが可視化できるものに対して、社全体としての取り組みが加速しやすい」という、数字に敏感な同社の企業文化があるのだという。可視化しやすいのはダイレクトレスポンスの領域であるため、必然的に、同社ではネットマーケティングが進化を遂げていった。
たとえばテレビCMの効果をROIで証明するのは、非常に難しい。ニーズが顕在化しているカスタマーであれば証明しやすいが、いつ顕在化するかわからない状態で実施している広告の、ラストアクションへのROIを述べても説得力に欠ける。とはいえ、ここを切り捨てるわけにはいかない。デジタル広告やSEO、アプリといったネットマーケティングの手法だけではリーチが限定的であるため、この部分だけをやっていては事業がいずれ縮小していってしまうからだ。
そこで同社は、ネットマーケティングで培った可視化とPDCAの方法論を、オフラインマーケティングに導入することを試みた。アクションと相関する、因果のある経験があるのではないかと考え、何が関連しているのかを、ログデータと調査を組み合わせながら証明し、それをKPIとして設定したのだ。
「このKPIを設定してから、ブランドプロモーションに投資しやすくなりました」と金井氏は振り返る。ここから、テレビを中心としたブランドリーチと、デジタル広告やSEOによる獲得を組み合わせた、二刀流ともいえる集客モデルが出来上がった。
オフラインは予算設定も困難を極める
オフラインプロモーションのもう一つの悩みは、予算設定だった。成果を数字として可視化することが難しく、このことが長らく課題になっていたと金井氏は打ち明ける。
金井氏は様々な統計モデルを組み合わせ、シミュレーションモデルを作成した。そして、その中でデータソースそのものに対する課題を実感したのだという。
「マーケットや競合環境によって変わることをシミュレーションモデルに適用しようとすると、マーケットのデータや、競合の広告データなどを、かなり高い解像度で把握しなくてはなりません。でも、そんなインプットデータはなかなか用意できないため、モデルを作ること自体が難しいのです」(金井氏)
そこで、現時点ではモデルを作って投資配分を基準化することがそもそも難しいのだと理解。そして、マーケットや競合環境を、可能な限りデータでとらえ、それを踏まえた戦略に基づいて予算を設計することとした。
「利益に対するコストを見ながら、どういうマーケット環境で、どういう競合環境であればKPIを達成できるのか、きちんと調べて予算を設定する。戦略に基づいた予算設計を柔軟に行うには、この方法が今のところ一番しっくりきています」(金井氏)
オフラインマーケティングのPDCAも週次で回す
ROIと予算設計の次に課題となるのは、オフラインマーケティングの成果をいかに可視化し、PDCAを回すかである。
「ネットマーケティングは基本的に全数データなので、それ自体がファクトです。しかしサンプルデータの世界は全数データとは異なり、一つのデータソースに絞っているとなかなか動きを代弁してくれません」(金井氏)
そこで金井氏は、テレビ端末のサンプルログ視聴データ、Googleトレンドのブランドクエリ、テレビの視聴率や視聴質など、実に様々なデータを集めて検証。データソースを組み合わせて可視化し、PDCAをまわすためのモニタリング指標と体制を作り上げた。それも、ただ単純に組み合わせるのではなく、あるモデルを作ってそれをKPIとし、実行してみてPDCAを回すことを週次で行っているという。
実際に運用する中で、予算配分には柔軟性が必要なこともわかった。リーチを目的としたブランドプロモーションと、獲得を目的としたダイレクトレスポンス広告とでは、やり方もKPIもまったく異なる。「最終のKPIを考慮しながら、現状に合わせて柔軟に配分し直すことが重要」と、金井氏は説く。
「期初にKPIを立てても、半年も経てば状況は大きく変わっていますよね。そのため、予算配分も半年、もっと言えば3ヵ月ごとに見直していくべきです」(金井氏)