パートナーシップに関する8つの原則
デジタル広告の発展は、企業が生活者と接触する新しい道を切り開いた一方で、かつての広告界には存在しなかった大きな問題をもたらしている。2018年、WFA(世界広告主連盟)の世界大会が日本で開催され、広告主、広告会社、メディア、プラットフォーマーの4者が守るべき原則を示した宣言文「グローバルメディアチャーター」が発表された。
これを受けてJAAでもデジタルメディア運営委員会を中心に同宣言の日本版の策定を模索し、11月26日に「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を発表。生活者のよりよいデジタル体験と健全な業界の発展を目指し、パートナーシップに関して以下の8つの原則を提示している。
【パートナーシップの8大原則】
1. アドフラウドへの断固たる対応
2. 厳格なブランドセーフティの担保
3. 高いビューアビリティの確保
4. 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
5. サプライチェーンの透明化
6. ウォールドガーデンへの対応
7. データの透明性の向上
8. ユーザーエクスペリエンスの向上
「アドテック東京2019」に登壇したJAA常務理事を務める資生堂ジャパンの小出氏は、「これらの問題が生まれた要因は、明らかに広告主側の姿勢にもある。そこで、グローバル版にはなかった内容として、8項目に添えて最後に広告主が持つべき倫理観についての文章を載せている」と説明する。
アドバタイザー宣言では、8項目それぞれで、パートナーに求めることと広告主が取るべき姿勢を明文化。たとえば1のアドフラウドでは、パートナーに対して「自社提供の広告枠におけるアドフラウドの現状を把握する/無効と判明した場合は払い戻す」等を求め、広告主に対しては「ソリューションごとに検証結果が異なるため正解が一つではないと理解する/対策の補償とプロセスは事前に合意する」と記載している。
個別項目はぜひJAAのサイトを参照されたいが、広告主に対しては社会に対する責任を認識し、パートナーのビジネスモデルを尊重して情報共有に努めることなどを提示する一方で、各パートナー企業にはそれぞれの項目で決して簡単とはいえない基準や要求が示された。
広告取引の透明化と費用負担の課題
JAAデジタルメディア運営委員長でもあるモデレーターの山口氏から率直な感想を問われ、ヤフー宮沢氏は自社のメディア事業を預かる立場として「インターネット広告は広告主とユーザーの双方がハッピーでないと成り立たない。こうした宣言の期待に、行動で示すことが必要だと捉えている」と語る。
ただ、上場企業として株主も含めた各ステークホルダーの納得と満足を得るには、様々な観点でのバランスも求められる。「そこに、しっかり投資するという覚悟が問われていると思う」と宮沢氏。実際、しかるべき部分に予算を割き、組織としても従来のポリシー室の上位に「トラスト&セーフティ本部」を設けて人材も増強中だという。
他方、博報堂の矢嶋氏は「従来の予約型から運用型広告が一般化して、広告産業もデジタルトランスフォーメーションしなければいけない」とし、運用型広告を健全に扱うためのコストに関して広告取引の透明化の重要性を強調する。
「システム導入やブラックリストの整備、サイトのパトロールや人的な確認など各種のコストが発生する。これらをどのように負担するかを決めるためにも、まず利害関係者がサプライチェーンの実態を理解することが必要」(矢嶋氏)
運用型広告はその取引に複数のプレーヤーが絡み、広告主が実際の出稿面を把握できないことが問題だが、それはオンターゲットだからこそとも言える。「“枠から人へ”となったとき、トレードオフで失われたものを理解しなければ」と小出氏。
セッションの最後には、宣言発表後の動きとして、企業や広告プロダクトの監査や認証を担うアドベリフィケーション組織「JICDAQ」の設立が発表された。米、英での業界の各プレーヤーが連携した活動に続き、日本でも世界基準の仕組みと環境を整備していく。