業界基準は広告主とパートナーの関係構築にも寄与
JAAのスペシャルアナウンスメントを受けて、同日午後には特にブランドセーフティにフォーカスした公式セッション「ブランドセーフティに取り組むために」が設けられた。ここでは資生堂ジャパンという広告主の立場として小出氏が再度登壇、また同じく広告主サイドからP&G日高氏、そしてメディア、プラットフォーマーとしてGunosy近藤氏、ヤフー中村氏が登壇した。

資生堂ジャパン メディア統括部エグゼクティブマネージャー/日本アドバタイザーズ協会常務理事 小出誠氏
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン シニア メディア マネージャー 日高由香子氏
Gunosy 執行役員 メディア事業本部 ニュースメディア広告推進部 部長 近藤洋司氏
ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 トラスト&セーフティ本部 ポリシー室 室長 中村茜氏
モデレーターを務めたDACの徳久氏は冒頭、ブランドセーフティを侵害するコンテンツとしてJAAで定める「広告掲載不適切コンテンツ」と「ブランド毀損リスクコンテンツ」を解説。前者は違法性が高く、業界を問わずどの企業にとっても広告掲載が望ましくないもの、後者は業界や各企業によってはリスクと捉えられるもの、と大別されている。後者を排除するには、広告主側が線引きを明確にし、パートナーとしっかり共有することが必要だ。
P&Gでは不適切な面はもちろん、誤ったターゲットリーチなどブランドイメージの毀損につながる広告掲載はすべて対策の対象と捉えている。仮に不妊治療中の人にオムツの広告を配信してしまったら、それも心証を悪くする一例としている。オンターゲット率が低かった状況を、広告会社とともに数年にわたって地道に改善し、数%の投資で中長期的には数十%の獲得を実現した。
「測定の標準化、そしてオペレーションの透明性を担保するべく第三者データを使うことはマスト。業界の基準があることで、投資の効率も上がり、パートナーとも同じ土俵で話ができるため関係性もよくなると思う」と日高氏。
資生堂ジャパンも業界に先駆けて対策を進め、特に昨夏にトップから「リスクはゼロにすべき」と強い発言があったことから、取り組みがさらに加速。現在は「意図しない場所への掲出は0.2%ほどまで下げられた」と小出氏。

パフォーマンス偏重の姿勢を変える機会に
一方、メディア側の近年の取り組みはどうか。今年4月にJAAが共同実施した意識調査によると、メディア企業では「ブランドセーフティという問題自体を認識していない」と答えた割合はさすがにゼロだったが、「アドテク企業と広告会社の意識は広告主より相対的に低く、差が大きいと感じた」と徳久氏は話す。

Gunosyはエンジニア率が約4割と高く、広告配信やフラウド排除などのシステムは内製しており、各取引企業や掲載コンテンツの審査も厳しく行っているという。近藤氏は「内製化が進んでいただけに、第三者機関との連携が遅れているのは事実なので、その点を進めていく」と話す。
ヤフーでは今年5月、独自の基準「広告品質のダイヤモンド」を発表。また先んじて4月、JIAAが発表したガイドラインの策定にも関わっている。「これらガイドラインに対し、人の目による審査、システムによる審査、企業・団体連携による審査の3つを掛け合わせて取り組んでいる。一社では解決しない問題だが、各社と協力して、数年後にはこの話をしなくて済むように尽力していきたい」と中村氏。
広告主によって求めるレベルや内容が異なる難しさもあるが、一方で「パートナー企業の“対策しています”という申告も、相当レベルが異なっているのでは」と小出氏。ツールを指定すべきか、しかしSNSなどは種類によっては導入が難しい、と課題は多い。
だが、今回のJAAの発表と前述の「JICDAQ」設立は、“やっています”状態を脱する機会とも捉えられる。「パフォーマンス偏重の考え方を見直し、当社のようなミドルメディアが志をひとつにこの課題に取り組むことが重要だと考えている」と近藤氏。またメディアだけでなく、海外を含むプラットフォーマーに対して小出氏は「透明性に関する要請を受け入れ、情報も提供してほしい。逆にそこからは広告主の責任として、公正な場に広告を出稿し、そうでない場には出稿しないようにしたい」、日高氏は「業態や国内・外資によらず、反対すべきところは断固反対、合意できるところと組む姿勢で今後も臨む」と述べた。