データや数字で判断することの弊害
MZ:デジタルマーケティングに関わっていればいるほど、データや数字を妄信してしまうところがあるように思います。松本さんから見て、この現状に対して問題に感じるところはありますか。
松本:データをもとに判断する場合良い面と悪い面があります。前者は数字で判断できること。後者は数字で判断できるもの以外を見なくなってしまうことです。
世の中の大半のことは数字で表現できないと思っています。そのため、データや数字だけ見て判断するのは、世の中の大半のことを無視しているのとほぼ同義です。

MZ:具体的に、データや数字で表現できないものを紹介いただけますか。
松本:たとえば、広告配信をしてビュー、クリック、Webサイトの回遊、コンバージョンは数字で把握することができます。ただ、コンバージョンした人が「本当にその広告がなければコンバージョンしなかったのか」というのを考える必要があると思っています。
さらに、コンバージョンした人がなんとなく買ったのか、前々から欲しいと思って買ったのかで、購入後に取るべきサポートも変わってきます。
もし、数字だけ見た場合、そのコンバージョンに思いがあってもなくても1件としか見ることができません。デジタルは行動に関する定量情報に偏っているので、買った人の思いを理解するための定性情報を把握することも重要だと思います。
データと正しく向き合うために必要なこと
MZ:では、マーケターがデータと正しく向き合うために、何が必要だと思いますか。
松本:まず、追うべきデータと追わなくていいデータに分けて考えます。追うべきデータにはコンバージョン数やアプリのダウンロード件数などがあると思いますが、そのコンバージョンポイントの裏付け情報を取ることが重要です。
たとえば、アプリのダウンロード件数であれば、ダウンロードした人が何回起動したのか、スマホの画面のどの位置にアイコンがあるのか、もしグルーピングされているならどのアプリと一緒になっているのかをアンケートなどで探るといいと思います。
このように、1件の数字の裏側で消費者がどういった過程でそのデータを生んでいるのかを、お金をかけてでも見たほうがいいと思います。
MZ:追わなくて良いデータを判断するためにはどうすれば良いのでしょうか。
松本:マーケティングにはKGI、KPI、KPIを達成するための複数の指標が存在しています。その中で、KPIを達成するために必要そうだと思える指標を見極めることが、追わなくて良いデータを判断するためには必要です。指標はいくらでも作れてしまうので、いるものだけを取捨選択していくことが、マーケターには求められます。
MZ:他に、データとの向き合い方で必要なことはありますか。
松本:データ=数字だけではないということを認識して、今手元にないデータは何かを考えることです。それは、消費者の声、場の雰囲気、リアル店舗かもしれませんよ。
マーケティングオートメーションやアナリティクスなどの各種ツールには、計測できるデータと計測できないデータが存在します。その中で、計測できていないけどマーケティングの意思決定に必要なデータは何かを整理すると効果的だと思います。