スウェーデンの消費保守主義、アマゾンやアップルも苦戦
ナショナリズムの台頭は、消費者市場にどのような影響を与えているのか。移民問題で揺れるスウェーデンでは「消費保守主義」などと呼ばれる現象が顕在化している。これは自国または民族的・思想的に近しい国のブランドを選ぶという消費志向・行動だ。
スウェーデンの調査会社Marketが2018年10月に発表したレポートでは、そのことが顕著にあらわれている。同レポートではスウェーデンで事業展開するリテールブランドの成長率が算出されたが、成長率トップ5のうち3ブランドが地元ブランドであることが判明したのだ。
成長率が最大だったのはスウェーデン企業であるXL-Bygg。成長率は16.9%だった。XL-Byggに次いで成長率が高かったのは、同じくスウェーデン企業であるMio。成長率は16.3%。トップ5にはこの他ドイツのLidl、スイスのBauhaus、スウェーデンのWillyがランクインした。
このスウェーデンの消費保守主義のもとでは、地元ブランドや欧州ブランドを選ぶ傾向が強く、米国企業も苦戦しているようだ。アップルも例外ではない。同社はスウェーデン・ストックホルムの王立公園(クングストラッドゴーダン)に旗艦店を開設する計画だったようだが、地元の強い反対により計画は頓挫した。
スウェーデン以外でも消費保守主義が顕在化している。クレディ・スイスが2018年3月に発表したレポートでは、中国における消費保守主義の台頭が指摘された。
家電に関して地元ブランドか国際ブランドどちらを支持するのかという質問では、中国の18〜29歳の層で90%が地元ブランドと回答したのだ。30〜45歳の層では87%、46〜55歳の層では83%、56〜65歳の層では85%とどの年齢層も高い割合となっている。
またスポーツウェアに関して、地元ブランドを支持するという割合は2010年の15%から2018年には19%となり、4ポイント増加したことが明らかになった。年齢層別では、18〜29歳の層では変化がなかったものの、30〜45歳の層で15%から18%になり3ポイント増加、46〜55歳の層では9%から21%と12ポイント増加、56〜65歳の層では7%から16%と9ポイント増加している。
同レポートが発表されたのは2018年3月。それ以降、米中貿易戦争の激化によって、ナショナリズムは一層強まっていることが想定される。ナショナリズムの台頭に加え中国経済の成長鈍化によって、中国市場を撤退する外資企業が増えているといわれている。フランスのリテール大手カルフールの中国撤退はこうした状況を象徴するものといえるのではないだろうか。
政治思想と消費の不可分の関係
世界的にナショナリズムが台頭している状況、海外市場でのブランディングを検討している日本企業は政治思想と消費の関係について目を向ける必要があるかもしれない。
フォーチュン誌の2016年6月の記事では、保守思想と消費に関しておもしろいデータが示されている。フォーチュン誌が米国の企業トップ100に関して、消費者の意識調査を実施したところ、保守層が好感を持つブランドが明らかになったのだ。
米保守層が好感を持つブランド・トップ10は以下となった。
1位 ウォルト・ディズニー
2位 アマゾン
3位 アップル
4位 マイクロソフト
5位 ウォルマート
6位 エクソンモービル
7位 アルファベット(グーグル)
8位 フォード・モーター
9位 ジョンソン&ジョンソン
10位 コカ・コーラ
一方、保守層が反感を持つブランドも発表された。ワースト1位は、JPモルガン・チェース、2位バンク・オブ・アメリカ、3位ウォルマート。ウォルマートは好感ランキングにもランクインしており、保守層からは複雑な目で見られていることが示唆されている。またフォーチュン誌は、コーラ戦争について、保守層がコカ・コーラ、リベラル層がペプシを選ぶ傾向が強いことがわかったとも伝えている。
ボストン・カレッジのマーケティング助教授であるナイラ・オルダバエワ氏がハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文「リベラルと保守、購買行動の違い」でも政治思想と消費の関連について議論されている。
オルダバエワ助教授らの調査によると、米保守層とリベラル層の間には消費に関してそれぞれ異なる傾向があることが判明。
保守層は消費を通じて「better」を求める傾向が強いという。よりよいプロダクトやサービスを求める傾向が強いということだ。一方、リベラルの消費は「unique」または「different」という言葉で特徴づけられると指摘している。誰かと異なるユニークなプロダクトやサービスを求める傾向が強いという。
欧州ナショナリズムの台頭に加え、英国ではタカ派と呼ばれるボリス・ジョンソン氏が首相に任命され、米国で来年予定されている大統領選挙ではトランプ氏優勢との見方が有力だ。ナショナリズムはさらに強まることが見込まれる。今後マーケティングにおいて政治の視点がより重要になってくるのは間違いないだろう。
