SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』デジタルクリエイティブの作法

「価値ある事実」が人を動かしブランドの価値も高める

罪悪感からの解放も価値に日清麺職人のPR

――CSVやSDGs、地方創生の推進もクリエイティブの力で支援されていますが、社会のためになるクリエイティブを作るのに必要なことはなんでしょうか。

 仕事の依頼があると、クライアントもブリーフィングをしてくれますが、その内容が100%消費者にとって価値のあるものになっているとは限りません。そのため、我々からも世の中が求めているものや、そこに至るまでに導くストーリーを一緒に考えます。

 日清食品の「麺職人」というブランドのプロモーションを依頼されたときは、40〜50歳の主婦がメイン層でそこに向けたコミュニケーションを企画していました。その中で、どうやらカップ麺を前に、身体に悪いと罪悪感を覚えたり、いざというときのためにストックしておきたいけど家族に出すと手抜きに思われるかも……と葛藤していたりするといったデータが出てきたんです。

 そこで商品のおいしさだけを訴求するのではなく、カップ麺を食べにくい世の中ってどうなのかと問題提起し、食べることへの罪悪感や負い目から解放することを商品がもたらす価値ある事実としてプレゼンしました。

 その結果、ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんを起用し「カップ麺を食べて何が悪いのよ!?」「手抜きじゃない! 息抜きです!」といったメッセージを伝えるクリエイティブを開発しました。ニーズがあるのに、手が伸ばしにくい、この概念を変えることが、ブランドの価値になるのではとアプローチしています。

 元々あるものでも、見方を変えることで価値の作り方が変わっていく。これはFACTが武器にしているところです。

 メーカーの場合、自分たちの商品にいかに価値があるかを主軸にコミュニケーションしがちですが、それ自体が受け入れられる土俵そのものの在り方に真摯に向き合うのが、パートナーとしてコミュニケーションをやっていく上で大事だと思っています。

 その点については、社内には戦略プランナーやPR担当もいるので、いろいろな視点からアプローチ方法を考えています。

なければ新事実を作る佐賀牛の魅力発信に学ぶ

――昨今は、デジタルのタッチポイントも増えており、顧客接点としても見逃せないものになりつつあります。デジタル上に展開するクリエイティブを考える際に、意識すべきことはありますか。

 デジタルでワークしないものは、現代社会において機能しないものと言っても過言ではないと思っています。「麺職人」ではCMは打たず、店頭のボードとWeb動画、SNSキャンペーンが主な施策でしたが、一番気になる主婦の声をTwitter中心に拾うようにしていました。同意や共感など、価値を認めてくれている人たちの反応によって伝えてきたものが本当に価値ある事実だったかどうか、次にどういう方向に向かえばいいのかといったヒントを得ていますね。

 また、地方自治体などがクライアントの場合、CMを打つ予算がないことも多いので、自分たちで発信し拡散していけるデジタルとは相性が良いと考えています。

 ですがこの場合にも、ポイントとなるのは「事実」の作り方です。

 少し前に佐賀牛のプロモーションを手がけたのですが、そのときは「麺職人」のときのように埋もれていた事実を掘り起こすのではなく、新しい事実を作りました。

 佐賀牛は、綺麗な艶サシが魅力的な特徴なのですが、近年の健康志向によって赤身のニーズが高まって、艶サシのニーズが下がってしまっていた。でもなんとかこのサシの魅力を伝えられないかと考えできた企画が、「サシパワー」というキャンペーンです。『佐賀牛おいしいよ』と伝えるのではなく、脳科学者の茂木健一郎氏を起用して『サシを見るだけで人間は幸せを感じる』というのを実証してもらい、そのベクトルで施策を展開していったところ、いろいろなメディアにも取り上げられました。

 事実があるからこそ、大胆なクリエイティブに昇華できる。昔は、とにかくおもしろいコンテンツを作ってバズらせて欲しいというオーダーもありましたが、その情報を取り入れるべきかどうかが消費者それぞれに委ねられている今「そうだったんだ!」という気づきや驚きを与え、人から人へ伝播していく「価値ある事実」は強いコンテンツやニュースになっていくものだと思います。

 これからは価格競争だけではない、もの選びの時代に突入すると思っています。特に若いZ世代の動きなどを見ると、このブランドが社会的に何を果たしているのかを気にしていて、それがブランドの価値を左右する。すぐに売上に直結するものばかりではないかもしれませんが人の記憶の中に残す「価値ある事実」があると、企業やブランドを高める財産となり、これからますます大事になってくると思っています。

社会問題と企業をマッチングして広告を超えたブランド活動を

――事業主のマーケターに対して、求めることはありますか。

 事業会社にいると、「売上を上げる」ことに責任があるので仕方ないのですが、地域団体などと比べるとKPIなどに縛られすぎているのではと感じることがあります。もしかしたら今後現在の広告の仕組みと売上の構造が連動しなくなっていき、場合によっては広告もいらなくなる時代がくるかもしれません。

 だからこそ、商品やサービスの訴求だけでなく、若い世代に企業が認知されるようなコミュニケーションが求められるようになるし、その動きが強くなっていく気がしています。

 企業のCSVやSDGsの取り組みなど、企業内組織を横断して進めるプロジェクトが増えていくと思うので、そうしたときにチームに入って、一緒に動けるような関係でありたい。

 またその際、企業をうまく社会の問題や日本の文化の衰退にマッチングさせて、広告を超えたブランド活動のお手伝いがしたいですね。

――これから挑戦していきたいことについて教えてください。

 一番は、サービスを作っていきたいです。少し前に「注文をまちがえる料理店」という、認知症の人たちがホールスタッフとなって働くレストランが話題になったじゃないですか。あれは1つの社会的な課題が背景にありながらも、関わる人たちがWin-Winになれる関係作りをして、それがきちんとしたサービスとして成立していた。FACTと名前を掲げた以上、1つのプロモーションで終わるものではなくて、それが1つのアセットとなって全国規模に広がるサービスを生んでいきたいです。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
定期誌『MarkeZine』デジタルクリエイティブの作法連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/01/24 15:30 https://markezine.jp/article/detail/32779

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング