広告が効きにくくなった2つの理由
廣澤:今回は、「アイディアを湧かせて、世の中を沸騰させたい」をコンセプトとするクリエイティブカンパニーである博報堂ケトルの代表取締役社長共同CEOである太田郁子さんにお話をうかがいます。
昨今、“広告が効きにくくなった”という言説を受けて今後のコミュニケーションのあり方が問われています。今回の対談では、昨今のコミュニケーションにおける課題や今後求められることを探っていきたいと思います。
漠とした質問ですが、現在の企業のコミュニケーションが抱えている問題はなんだと思いますか。
太田:企業のコミュニケーションに関しては、廣澤さんが言っているように“広告が効きにくくなった”のが大きな課題だと思います。広告が効きにくくなった理由は大きく2つ。1つ目はテレビの視聴時間が減ってテレビCMが届きにくくなったから、2つ目はSNSの登場で、生活者がどの情報を信じていいのかわからなくなったからです。
これらの理由によって、企業からの情報が届きにくく、届いても信じてもらいにくくなったと私は考えています。
廣澤:情報の信頼性がなくなってきた背景には、SNSを筆頭としたメディア環境の変化やそれにともなう個々人のつながり方やそこから生まれる認識の変化があるのでしょうか。
太田:メディア環境の変化が一番大きいです。加えて、そもそも生活者の中に欲求がなくなってきていることも、より企業のマーケティング・コミュニケーションを難しくしている背景にあると思います。高度経済成長期には、生活者が欲しいと思うものが続々出てきていて、それを伝えればよかったのに対し、現在は生活者の多くが満たされて心の中にニーズがなくなってきています。
たとえば、スマートフォン市場もコモディティ化が進んでいて、新しい機能が買い替えのきっかけにならなくなってきています。こういった事態は様々な市場で起きているのです。
新しい欲求を作るコミュニケーションが必要に
廣澤:これまでのコミュニケーションは、あえて極端に言えば表面化しているニーズに対し、広く画一的なメッセージを届けていてもある程度効果を発揮したのだと思いますが、それがどのように変化しているのでしょうか。
太田:現在のマーケターに求められているのは、新しい市場を作ることです。そのために必要なのは、生活者の中に新しい欲求を作るコミュニケーションだと思っています。生活者の中にニーズがないからこそ、「こういう生活って素敵じゃないですか?」と企業側から新しいライフスタイルを提案し、新たな欲求を生み出すべきではないでしょうか。
廣澤:では、太田さんが生活者に新たな欲求を作るために今後どのようなコミュニケーションを見据えていますか。博報堂ケトルには「手口ニュートラル」「アイディアを湧かせて、世の中を沸騰させたい」というコンセプトがあると思いますが。
太田:博報堂ケトルは2006年創業当時、多くのコミュニケーションがフィルムやグラフィック中心だったのに対し、デジタルを活用したりリアルイベントでパブリシティ露出を狙ったりするなど「手口ニュートラル」な仕掛けを数多く行ってきました。
しかし、単に広告を作るだけでなく、注目されるきっかけを作ることで世の中を沸騰させることは現在のコミュニケーションの王道になってきています。その中で博報堂ケトルが価値を発揮し続けるには、そのコンセプトを大事にして、今までになかった手口で企業のマーケティング課題を解決していく必要があると思っています。
たとえば、弊社の畑中が群馬県高崎市のPRを目的に始めた「絶メシリスト」キャンペーンは、書籍化やテレビドラマ化など、既存の地方PRの枠組みを超えた取り組みとなっています。これからもこのような、新しいチャレンジに積極的に取り組みたいです。
廣澤:新しいチャレンジが実現できているのは、博報堂ケトルにいるクリエイターの方々が優秀というのもあると思いますが、それ以外に博報堂ケトルならではのDNAみたいなものはありますか?