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ブランドは「世界観」から作られる 水野学氏と山口周氏が語る“便利すぎる時代”の戦略【お薦めの書籍】

 便利な商品やサービスが必要以上に供給される現代では、消費者の価値観が変化してきています。本記事では、今後のビジネスにおける重要な概念として「世界観」を取り上げた書籍を紹介します。  

今求められるのは「世界観=物語と未来を提示する力」

 今回紹介する書籍は、『世界観をつくる 「感性×知性の仕事術」』。本書は、クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタントの水野学氏と、人文科学と経済科学の研究者にして著作家である山口周氏の対談をまとめた一冊です。

『世界観をつくる 「感性×知性の仕事術」』1,400円(税抜)水野学、山口周(著)朝日新聞出版

『世界観をつくる 「感性×知性の仕事術」』1,400円(税抜)
水野学、山口周(著)朝日新聞出版

 水野氏は、1998年にgood design companyを設立して以降、「くまモン」、Oisix、NTTドコモの「iD」など、多くのブランドや商品の企画、デザイン、長期的なブランド戦略に関わってきた人物です。一方山口氏は、電通、ボストン・コンサルティング・グループ等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した経験を持ち、現在はライプニッツの代表のほか、複数企業の社外取締役、戦略・組織アドバイザーを務めています。

 本書では、これからのビジネスを考える上で重要な概念として「世界観」が取り上げられています。本書において世界観とは、私達がいる世界(=社会)がどのようなものかを認識し、今後ある世界はこうだと物語や未来を提示できる力のこと。なぜ今この世界観が重要なのでしょうか。その背景には、山口氏が昨今の社会に起きていると語る「価値の変化」がありました。

今は「困っていることが少ない」時代

 そもそも企業が人々に提供できる価値は、「絶対的なものではなく、社会のあり方によって変わっていくもの」だと述べる山口氏。水野氏もこの意見に同意し、価値が変化したモノの例として私達に身近な冷蔵庫やテレビを挙げています。普及していなかった時代では生活を豊かにするモノとして高い価値があったこれらも、既に世の中で広く浸透している現在ではやはり当時に比べ価値が下がっていると言えるのです。

 山口氏は、長い歴史の中でこのように多くの商品やサービスが生まれ、普及してきた結果、現在の社会では人々の様々な欲求が十分満たされてしまっている状況にあると主張。これまで「困っていることを解決するために、お金を払ってモノやサービスを購入する」という前提があったにもかかわらず、現代社会ではその「困っていること」が希少になっていると言います。

世の中に「正解の過剰」が起きている

 山口氏は、人々の抱える「問題=困っていること」が希少になった結果、起きてしまったことの典型的な例として、家電のデザイン、機能が各メーカーでほぼ同じであることを挙げています。これを「数少ない問題に対してみんなが論理的に正しい答えを追い求めた結果」だと述べ、「正解の過剰化」と表現。また、昨今クラシックカーや薪ストーブが人気になっている現象を例に挙げ、「技術が進歩し、利便性さえも過剰になったことで、かえって不便なことを選ぶようになっている」とも述べています。

 水野氏は、この「利便性の過剰」について「メーカーが直面しているのも、まさにそこ」だと、企業側から見た状況を改めて提示。「便利なものはもうあって、これ以上便利にしようがないので、壁にぶち当たっている」と表現しています。

 このような現状を踏まえ、山口氏は企業が提供する価値について、次のように表現します。

 そういうときの会社としての戦略は、二つの価値のうちどちらを選ぶかです。「役に立つという価値」か「意味があるという価値」の二者択一です。日本企業はずっと「役に立つという価値」で戦ってきたけれど、「役に立つという価値」は過剰になってしまい、「意味があるという価値」が希少になった。つまり、「意味がある」こそ価値がある時代に変わったのです。(p.34)

 本書では、前述の「意味」を作ることに成功した企業の事例が多く挙げられています。そこに見られる共通点こそ、「世界観」を表現できていることなのです。ブランドロゴ、テレビCMといったクリエイティブの中に、世界観を作り伝えることで、ブランドを作ることができると伝えています。

Appleが「世界観」を共有できた理由

 本書では、世界観によってブランドをつくりあげた企業の例としてAppleが挙げられています。同社(当時の社名はApple Computer)が1987年に発表した「Knowledge Navigator」というショートフィルムでは、近未来においてコンピューターがどのように人々の知的活動を支援するようになっているかという構想が提示されています。そこにはネットワークでつながったデータベース、タブレット端末、タッチパネルでの入力といった現代に近い世界観が表現されていました。

 本書で強調されているのは、Appleが行ったことが未来の「予測」ではなく、「構想=ビジョン」の提示だったこと。そして、テキストではなくショートフィルムという表現方法を選ぶことで、当時としてはまったく新しかった世界観を誤解なく、効率的に多くの人に伝えることができたことです。山口氏はさらに次のように述べます。

 問題が希少化しつつある現代の世界においては、まず「世界観を構想する」ことが非常に重要だということ。そして、世界観を他者に伝えるためにはアートやデザインなどの視覚表現が極めて重要なツールになるということです。(p.11)

 本書では、成功した商品やサービス、ブランドにおいてどのように世界観が作られてきたのか、そして「センスがない」と思われてしまう/思い込んでしまっている日本企業が今後どうしていくべきなのかが語られています。

 本書を通じ、ビジネスにおいて社会に期待される「世界観」がどんなものなのか、そしてそれを表現できるクリエイティブが何であるかを検討してみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

安原 直登(編集部)(ヤスハラ ナオト)

大学卒業後、編集プロダクションに入社。サブカルチャー、趣味系を中心に、デザイン、トレーニング、ビジネスなどの広いジャンルで、実用書の企画と編集を経験。2019年、翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/05/08 09:00 https://markezine.jp/article/detail/33200

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