営業活動を分解することがデジタル化への一歩
――なるほど。もう一つの難しさについても教えてください。
須藤:画面越しでは、相手の反応が見えにくいことです。相手がビデオをONにしてくれていればまだ良いのですが、音声だけで反応を察するのはかなり厳しい。
営業マネージャーも困っています。案件の進捗を把握するのに、オフィスにいれば社員に「あの件はどう?」と一声かければ良かったのですが、全員がリモートワークだとそうもいきません。
――ではオンラインでの営業活動に適応していくためには、どうすれば良いのでしょうか。
須藤:私たちが今からやらないといけないのは、営業活動のアンバンドリング、つまり分解することだと思います。一つの商談には、説明する、要望を聞くなど、様々な要素が含まれています。対面の商談では一人の営業パーソンが意識せずに様々な工程を行っていましたが、オンライン環境下では、それぞれのツールに得意なことを任せたほうが良い。説明は動画で見せて、お客さんの反応はツールに記録してもらい会社にも共有、自分はお客さんのニーズを聞き出し、不安や課題を解決することに集中するといった役割分担が必要です。
当社では解決策の一つとして、口頭で説明すると長くなってしまいがちなサービス紹介や営業資料を、90秒程度の動画に置き換えることを提案しています。自社でも以下の動画を制作しましたが、短いアニメーションで体感的に理解してもらうことにより、ヒアリングに時間を割くことができるようになりました。
結果を出すだけではダメ、報告・共有までが仕事に
――少し視点を変えて、個々人の働き方についてもおうかがいします。Kaizen Platformさんでは創業時からリモートワークを取り入れてきたとうかがっていますが、リモートワークが一気に浸透することで、どんな影響があると考えていますか。
須藤:コロナの話が出る前から「ホワイトカラーの仕事の7割まではリモートで可能」という分析も出ていたように、物理的には「けっこうできるね」という結論に至るのではないでしょうか。このような状況になった以上、残りの3割についてもなんとかしようという流れになっていくと思います。
その一方、働く個人としてはシビアな時代になると思っています。リモートの環境では、自分の頑張りを上司や職場の人たちがいつも見ていてくれる、知っていてくれるということは難しくなります。すると「あの人、結果は出ていないけれど頑張っているよね」という“プロセス”を評価しにくくなり、アウトプットで評価せざるを得なくなるのです。もちろんこれまでも上司がすべてを見ているなんてことはなかったのですが、雰囲気のようなもので守られていた部分もあったはずです。
これまでは“結果を出すまで”で終わりだった仕事が、リモートワークが主流になると、“結果を出してちゃんと報告・共有・情報発信をして、それを認めてもらうことまで”が仕事になっていく。それ自体は大切なことですが、働き手の負荷も少し気になるところです。
――そうすると、個人はどのような姿勢で仕事に臨めば良いのでしょうか。
須藤:今まで以上にコミュニケーションが重要になっています。コミュニケーションにはいろいろ役割がありますが、その一つは情報を伝達する機能的な役割。この前リモートで登壇したイベントでおもしろい話があったんですが、「デジタル化が進むと、日本語が英語化していくのではないか」という話があったのですが、長時間集中するのが難しいオンライン環境では、端的・簡潔に伝えられる人が求められていると思います。
しかしそればかりだと、人間の関係性はギスギスしたものになってしまいます。つながっている、安心できると感じられる、感情的な結びつきの機能も必要です。当社でもチャットに雑談チャンネルを作ったり、趣味・関心のある話をする場やリモート飲み会を設定したりと、気を遣っています。テキストでのやりとりはどうしても冷たい印象を与えてしまうので慎重になる、リアクションにはスタンプや絵文字を使う、といった工夫も必要になると思います。
それから、離れているメンバーとも仕事を円滑に進めるには、ひたすらドキュメント化をすることです。エンジニアがリモートワークに向いているのは、コードを書いて仕事を進めるから。書き残すことはオフィスにいたとき以上に大切になります。