これから求められる小売とメーカーのあり方
MZ:サントリーでは、他の小売企業ともリテールAIを活用する取り組みを進めていると聞いています。その理由や実際に行っている取り組みについて教えてください。
中村:首都圏でスーパーマーケットや総合スーパーを展開する企業とも、デジタルやデータを活用した取り組みはスタートしています。
お客様を主語にした上で、どう集客するのかを切り口に取り組んでいますが、現状は試験段階のものがほとんどです。ただ、最終的にはトライアル様と行っているような流れになっていくと思っています。
MZ:両社のように、今後小売とメーカーが協業していくケースは増えていくと思われますが、その中でそれぞれがどういったことを意識すべきだと思いますか。
永田:これからの時代を乗り切る上でデータとAIを使わないのは不可避です。やはりデータのオープンイノベーション化を進めて活用できる環境を作ることに意識を向けるべきです。
海外では流通にAIを導入する流れが当たり前になっている中で、日本では現状のままで良いなんて誰も思っていないと思います。
データがないとAIの活用が困難だと訴えるためにも、リテールAI研究会を発足しました。サントリーの成功事例を理解してもらい、今後の日本のリテール産業がどうすれば生き残れるか考えるきっかけとなれば嬉しいです。弊社を含めたトライアルグループ全体でビジョンとして掲げている「流通情報革命」なくしてイノベーションはないと思っています。
中村:今以上にお客様のことを知るために、流通とメーカーが手を取り合った取り組みの必要性を認識していくべきだと思います。
グローバルレベルで見たときに、日本の製造業全体のROIやROEは低水準です。この利益率の低さの原因の1つには、価格軸での競争に陥ってしまっている点もあると思います。
人口が減っていく中で、生産性を高めて各メーカーがパイを取り合う状況下になったとき、日本の場合は生産性を高める前にコスト削減が優先されるんですね。分母を下げて分子に変化がなくとも生産性が上がったとみなされる構図で回ってしまっている。
最適価格での消費者への提供は重要ですが、過当競争により市場の平均売価が右肩下がりに落ちていく悪循環に陥っていると思います。
これを変えるには、価格以外の売り方を創り上げていく必要があるので、この現状と必要性にもっと多くのメーカーや流通が気づいて行動するべきだと感じています。
画一的なマーケティングのムダ・ムラ・ムリをなくす
MZ:最後に、今後の展望を教えてください。
永田:新型コロナウイルスが流行した状況下において、お客様の価値観やライフスタイルが変化し、お客様の買い物体験も大きく変わりました。そして、企業は見えていなかったものを見える化する必要性を今まで以上に感じたと思っています。
レジで決済をしたくないお客様に対して、スマートショッピングカートがあれば買い物をしながら商品をスキャンするので、決済のみだと約10秒とほぼゴースルーで終了です。接点がないまま接客が終わる買い物体験に徐々に変わりつつあることが今回のわかりやすい例として挙げられます。
そうなると、必然的にお客様から求められることもマーケティングも変わります。そして、カメラがあれば品揃えも発注もロスも変わる。今回の件は通過点の1つではありますが、我々は流通がより加速して変わると考え、産業の流れを変える流通革命を今後も推進していきたいと思っています。
中村:ECの世界でお客様の動きがトレースされ、マーケティングが高度化されているのは、ある程度データが見えているからです。しかし、リアル店舗ではお客様が来店してから決済するまでの動きや、購買後の店舗外での動きは、多くの店舗で現状はまったく見えていない。この一連の流れの見える化が必要です。
データという確たる証拠をもって、画一的なマーケティングのムダ・ムラ・ムリの不要性を訴え、お客様を知りながら最適なタイミングで最適なアプローチの方法で行う。そして、お客様に寄り添ったコミュニケーションでファンになってもらう。これらが、マーケティングの高度化を遂げるために重要となってきます。
今回の新型コロナウイルスでは、企業のデジタル化が遅れているが故に右往左往している部分があり、企業のデジタル変革の必要性を改めて感じるきっかけでもありました。いい意味で我々はチャンスとして捉え、この流れを多くの流通やメーカーにも汲み取っていただき、同じ志を世に広げていきたいのが我々の思いです。