橋本 優子氏
株式会社ベネッセコーポレーション
教育情報サービス部 デジタルサービス課(所属は取材時)
「ベネッセ 教育情報」のアカウントで発信するコンテンツの設計を担当。配信内容の選定やクリエイティブのディレクションを行う。
小黒 沙織氏
株式会社ベネッセコーポレーション
教育情報サービス部 デジタルサービス課(所属は取材時)
「ベネッセ 教育情報」のアカウントにおける集客施策を担当。教育セミナーの集客、教育関連動画視聴拡大の集客、LINE公式アカウントへの集客など集客全般。
成島 直央氏
GMO NIKKO株式会社 広告事業本部 リーダー
ベネッセコーポレーション営業担当。同社によるLINE公式アカウント、LINE広告の運用をフロントにおいてディレクション対応。
山下 範之氏
LINE株式会社 B2Bストラテジックプランニングチーム
クロスプラットフォーム推進チーム
「クロスプラットフォーム」の戦略策定及びサービス内容の企画を担当。
土居 佳南子氏
LINE株式会社 Key Accountセールス2チーム
GMONIKKO営業担当。LINE関連の広告全般を支援。
新入試・新課程に関する悩みにOne to Oneで応えたい
MarkeZine(MZ):ベネッセコーポレーションでは、SNSを駆使して様々な情報を発信されています。中でも、2019年10月に開設したアカウント「ベネッセ 教育情報」は、新課程・新入試に関する最新情報を届けるアカウントとして多くのユーザーから支持されているようですが、このアカウントを開設した経緯を教えてください。
ベネッセコーポレーション橋本氏:実際に2020年4月からの新課程・新入試について、私どものお客様からも当時、「新しい制度について不安が高まっている」という声をよくいただいておりました。そうした中で、教育サービス企業として、正しい情報をタイムリーに発信し、お客様に安心してもらう取り組みが必要ではないかと考えました。
多くのお客様の悩みに応え、そしてOne to Oneのコミュニケーションを行うことを目指して、2019年10月にLINE社のLINE公式アカウントを導入し、「ベネッセ 教育情報」のアカウントを開設しました。
橋本:翌年度も徐々に迫ってきたため、アカウントを開設した2019年10月からかなり短期間で情報発信のための準備を行いました。GMO NIKKOさん、LINEさんのご協力に感謝しています。
友だち数の増加にともない、ブロック率の増加が課題に
MZ:LINE公式アカウントはどのように運用されていますか?
橋本:私は「ベネッセ 教育情報」で発信するコンテンツ設計を主に担当していますが、このアカウントでは大きな教育変化についてタイムリーに解決する情報を届けるため、定期的な情報配信によってお客様との関係を維持し、同時にお客様の困りごとを解決し、応援することを目的としています。
記事更新のタイミングは週1回。「いまお客様が一番知りたいと思っている教育情報をタイムリーに届ける」という点を重視し、コンテンツを制作しています。また、当初はテキスト中心だったメッセージ内容でしたが、より興味を持っていただけるように、クリエイティブの改良を繰り返したり、CTRを確認したりしながら情報の中身を改良していきました。さらに、途中から動画コンテンツをアップするなど、表現にバラエティを持たせる工夫も行っています。
橋本:そうした取り組みが功を奏し、「ベネッセ 教育情報」はメッセージ内のリンクやクリエイティブのクリック率が高い傾向にあります。カードタイプメッセージ(※)などの新機能を活用しながら、配信コンテンツによって異なるユーザーの反応を伺い、ノウハウを蓄積してきました。
※4つのカードタイプを基にメッセージを作成する、LINE公式アカウントの機能
ベネッセコーポレーション小黒氏:私は「ベネッセ 教育情報」のアカウントにおいてより多くの方に最新情報を知っていただく取り組みをしています。これまで、LINEポイントを付与することでユーザーの友だち追加を促すなど様々な集客施策を打ってきました。
その中でも大きな効果を実感できたのは、2019年12月から2020年2月に出稿した、LINE広告でLINE公式アカウントの友だちを獲得する「Cost Per Friends」(CPF)を使った施策です。
GMO NIKKO成島氏:CPFで成果を出せたポイントはいくつかあります。1つはクリエイティブの作り方です。「ベネッセ 教育情報」のアカウント運用を続ける中で、「記事やコンテンツの要素を盛り込んだ、シンプルなクリエイティブ」という法則が見えてきました。クリエイティブに反応するユーザーは、シンプルに「その情報が欲しい」というニーズを抱えています。そのため、友だち追加を促すクリエイティブはもちろん、友だち登録後、ユーザーに送る「あいさつメッセージ」に反応の良かった記事のクリエイティブを配置することで、すぐにコンテンツへとアクセスいただけるよう導線を設計しました。
小黒:しかし、友だち数が増加すると同時に、ブロック率も増えてしまうという新たな課題が出てきました。
LINE公式アカウントのデータを活用し、潜在的な優良層へリーチ
MZ:CPFの配信後に生まれた新たな課題を解決するために活用したのが、LINEの「クロスターゲティング」だったということですね。
成島:その通りです。先ほど小黒さんから発言があったように、CPFの効果自体はかなり高く、一定の評価ができました。しかし、それに合わせてアカウントのブロック率も増えてしまいました。
そこで、LINE公式アカウントですでにリーチできているターゲットに近しい層をCPFで新たに友だち追加できれば、本当に情報を欲している層にアプローチできるのではないかと考えました。そこで提案したのが、クロスターゲティングでした。
MZ:LINEの山下さんにお伺いします。クロスターゲティングとはどのようなサービスなのでしょうか。
LINE山下氏:LINEでは、これまで企業向けの広告サービスとして、主に(1)LINE公式アカウント、(2)LINE広告、(3)LINEセールスプロモーションを展開し、それぞれ独立して提供してきました。クロスターゲティングでは、これらのサービスで得られたLINEユーザーの興味・関心や行動に関するデータを横断的に活用し、LINE広告のターゲティング精度を高めることができます。ベネッセ様の場合、LINE公式アカウント「ベネッセ 教育情報」の友だちの中でも、反応の良いユーザーのオーディエンスを作成してCPFを配信することで、集客の量・質の向上が見込めました。
LINE公式アカウントは、企業にとって「第2のオウンドメディア」といえるほど、ユーザーと近い位置付けにあるメディアと捉えることができ、それを友だち追加し、定期的に送られてくるメッセージを開封するユーザーは、企業の商品・サービスに強い興味・関心を持っていると考えられます。メッセージのクリックやユーザーオーディンスなどのデータをファーストパーティーデータに近い形で、LINE広告の配信におけるターゲティングに活用できるのが、クロスターゲティングの強みです。
成島:新入試・新課程に関する情報を本当に必要としているお客様にアプローチできれば、友だち追加後のブロック率の増加を抑えることができると考えました。そして、2020年2月末よりクロスターゲティングを活用した上で、再度CPFを配信しました。
CPFの友だち獲得単価は維持したまま、ブロック率は4%抑制を実現
MZ:クロスターゲティングを活用し、どのような効果を上げたのか教えてください。
成島:「ベネッセ 教育情報」アカウントのユーザーデータを使って作成したオーディエンスに対してCPFを配信した結果、以前と同等の友だち獲得単価を維持した上で、ブロック率も抑えられるという成果を得ることができました。
成島:クリエイティブは内容を差し替えながら運用を続けていますが、基本的には以前のCPFの時と同様、「シンプルなクリエイティブを通じて訴求し、アカウントを友だち追加した瞬間に、必要な記事を見てもらえる」という流れを意識しています。結果的に、CPFのクリック率と友だち獲得単価、また、その後のブロック率の低減を実現できました。
MZ:得られた成果について、具体的に教えていただけますか。
成島:当初はCPFにおける友だち獲得単価の改善というKPIを設定していました。しかし、記事やコンテンツの要素をシンプルに盛り込むクリエイティブにしたことで、そのKPIは早々に達成することができたのです。そのため、クロスターゲティングの導入にあたっては「友だち数の増加」「ブロック率を抑制する」「新課程・新入試に不安を持つ方に情報を届ける」というプラスアルファでの成果を注視するようになりました。
数値についてお話しすると、もともと目標としていた友だち獲得単価50%抑制は実現できていましたが、クロスターゲティングの導入でそこからさらに数%下げることができました。ブロック率については、現状のレポーティングでは累積でしか把握できないのですが、4%ほど抑えることができました。
クリエイティブの横展開で効率よく友だち数をアップする
MZ:クロスターゲティングを活用し、当初の目標からより高い基準で成果を出せたわけですね。数値的な成果とは別に、運用面ではどのような発見や気づきがありましたか。
小黒:LINEポイントなどのインセンティブよりも、教育の悩み解決につながる情報提供の方が反応が良かったことに、大きな手応えを感じました。アカウントでの情報発信を通じて、最終的に弊社の商品・サービスへの関心や入会意向を上げられたという実感があります。
橋本:「ベネッセ 教育情報」のアカウント開設から約半年という短い期間の中でも、トライアンドエラーを繰り返すことで、お客様のニーズをつかみながら成果を上げることができたと考えています。
配信するコンテンツも、当初は新課程・新入試に関する情報やそれに付随する「受験生の定期テスト対策」のようなノウハウに関する記事が効果的だと考えていましたが、記事配信後のCTRの結果や保護者の方へのヒアリング結果から、学齢にもよりますが、親子のコミュニケーション法や関わり方などの情報ニーズが高いことがわかりました。
たとえば高校生のお子さんですと、勉強方法よりも「いかに学習モチベーションを持ってもらうか」が保護者の関心ごとです。小学生のお子さんですと、どのように勉強の習慣を身に付けるかという課題に変わります。「ベネッセ 教育情報」のアカウントで、そうした記事トピックを中心に情報を発信したところ、CTRが40%超となったコンテンツもありました。
また、新型コロナウイルス感染症の影響で、3月から全国の教育機関が休校になっていた間も、お客様に必要なこと、ベネッセができることを考え、「休校中の過ごし方」や「家でできる学習法」など時事的なコンテンツを配信しましたが、結果的にCTRが約45%と高い数字につながりました。
メッセージ内で紹介する記事数も試行錯誤を繰り返した結果、現在は3本で落ち着いています。むやみに本数を増やして、クリックを分散させないことが大切だと思っています。
Cookie規制が進む中、クロスターゲティングへの期待は大
MZ:最後に、今後クロスターゲティングを活用してどのような施策を実施していきたいかお聞かせください。
小黒:1人ひとり異なるニーズや課題に寄り添い、その解決方法をご提案していく。お客様とそんな関係を築いていくのが理想です。そのために、既存のお客様と近い属性の潜在顧客に「同じ悩みを持っているかもしれない」という視点でアプローチできることは、非常に有効です。そうしたデータ活用を行えるという点で、このクロスターゲティングを今後も活用していくことは間違いないでしょう。
成島:我々は広告代理店として、今回の施策で友だち追加いただいたユーザーとの関係性を長期的な視点でモニタリングして、その成果をベネッセ様にフィードバックしていきたいと思っています。
これまでデジタルマーケティング業界は、Cookieで得られるWeb上におけるユーザーの行動データを使ってリターゲティング配信を行うなどして、広告効果を高めてきました。しかし、2017年以降から急速なCookie規制により、こうした手法が使いづらくなってしまいます。その中で、LINEのクロスターゲティングの価値は非常に高いといえますし、多くのユーザーが利用する社会インフラとなっているLINEだからこそ可能なサービスだと考えています。今後もクロスターゲティングをうまく活用し、長期的な視点でユーザーと企業とのコミュニケーションをより向上させるような取り組みを実施したいです。
MZ:LINEさんは、広告主様に対してどのような貢献をしていきたいとお考えですか。
LINE土居氏:ベネッセ様は「ベネッセ 教育情報」以外にもいくつかアカウントを開設いただいているので、今後はそれらのアカウントでもクロスターゲティングを活用し、目的に応じてより効果的な広告配信ができるようにご支援してまいります。そして、さらに多くの成功事例をつくるべく、弊社独自のノウハウをお伝えできればと考えています。
山下:そのためにも、施策ごとで効果が把握しやすいレポーティング機能の整備も進めたいですね。成島さんからお話がありましたが、LINE公式アカウントのブロック率についても累積ではなく施策別に確認したいといったお客様の要望を踏まえて、クロスターゲティングを一層進化させていきたいと考えています。