勝利条件の実現に必要な3要素
神田:次に勝利条件を実現するための中間目的(あるべき状態)を考えます。メールマーケティングには中間目的を考える際の、普遍的な3つの要素があります。取り組む順でいうと、「コンタクトリストの管理」「配信するコンテンツの内容」「配信頻度・時間」です。
1.コンタクトリストの管理
神田:「コンタクトリストの管理」には二つの意味合いがありますが、一つは無効なメールアドレスがないかをチェックすることです。メールアドレスの変更などで無効になったアドレスに配信してエラーが増えると送信元ドメインの評価が低下し、プロバイダーから迷惑メールであると判断されてメールが届かなくなってしまうことがあります。メールマーケティングの基本的な注意点ではあるのですが、ここを疎かにしているケースは多いです。
もう一つは、メールの受信者がどういった属性の人々であるかを理解することです。エンゲージメントを向上させるという目標があり、開封率を向上させるという定量的な指標を実現しようとするなら、配信するコンテンツのパーソナライズも検討したいところです。たとえばリストを属性ごとにセグメントして、それぞれのセグメントに応じたコンテンツを用意する。それが難しいようであれば、シンプルにメールの出だしに「〇〇様」と氏名を入れるだけでも、十分に親近感を高めることができます。
2.配信するコンテンツの内容
前田:エンゲージメントを高めるコンテンツを考える前に、そういった基本的な点が大事なんですね。
神田:はい。それができたら、自分たちが伝えたい想いや考えと、受信者が読みたい・開封したいと思えるコンテンツの内容を考えます。セール目的のメールは短期的には配信数を増やせば売り上げが上がりますが、それだけだと商品情報をただ貼るだけのメールになり、内容が薄くなりがちです。今、多くの企業がデジタルで情報発信している中、読者に選ばれるためには商品情報だけでは差別化できません。
メールで届ける情報の資源にはオウンドメディアや商品情報など「今ある情報」と、「新たに作る情報」の2種類がありますが、「今ある情報」でまだ発信していないものがないか、社内にあるコンテンツを整理してみても良いかと思います。逆に、メール用に新たに作成するコンテンツは、オウンドメディアなどに掲載する新しい資産になるので、ぜひ取り組んでいただきたいです。
前田:新しくコンテンツを企画する際、 読者がどのようなコンテンツを喜ぶか? どのようなコンテンツが役に立つか? ということを考えるにあたっては、先に定めた「台所に立とうと思える」という勝利条件を参考にすると良いですね。自社のキッチン用品を使ってできるレシピ情報を伝える、製品の機能性や製作者の想いなどを伝えるといったコンテンツも考えられそうです。こうしたコンテンツを考える切り口は、プ譜の左端にある廟算(びょうさん)八要素に記載する情報から考えることができます。

神田:また、コンテンツづくりに付随して最低限必要な対応として、サイトとメールのデザイン、トーン&マナーの統一や、開封率への影響が大きい送信元名に、読者に認知されたブランド名やサービス名を使うこと、コンテンツを示す適切な件名で送信するといったことが挙げられます。どれも忘れられてしまいがちなので、押さえておいてほしいですね。
3.配信頻度・時間
前田:続いて、中間目的を考える際の3つ目の要素「配信頻度・時間」について教えてください。
神田:販促目的のメールは多いところでは毎日、週に数回送信しているところがあります。しかし先にも話したように、配信頻度が多いほどコンテンツの内容を薄めることにつながります。送られてくる内容が薄ければ、読者の期待やメールを開く楽しみ・必要性も薄れ、開封率の低下を招きます。そのため、コンテンツの内容や制作体制、メールからのWebサイトアクセス時間などを基に、メールの配信頻度と時間帯を決定する必要があります。
前田:神田さんのお話にある3つの中間目的は、相互に影響し合っているのですね。きちんと段階を踏んでおかないと、前工程の影響を受けてエンゲージメントを下げてしまうことがよくわかりました。

前田:このように見ると、エンゲージメントを目的に整備したコンタクトリストや制作したコンテンツの内容、見直した配信頻度などは、販促目的のメールマーケティングに切り替えたときの資産にもなりますね。
神田:はい。ECなどはそれほど大きな影響を受けていませんが、BtoBでは展示会などのイベント参加や開催ができないことで、メールアドレスが非常に取得しにくくなっています。ですので、リストを大事に、焼き畑にしないようにすることが大切です。
動画とテキストをかけ合わせたコンテンツを
前田:ここまで、メールマーケティングのプロジェクトの進め方についてプ譜を用いて説明してきました。最後に、今後のメールマーケティングの見通しと、どのような対応が求められていくとお考えか教えてください。
神田:今後の予測は立てにくいのですが、短期的には対面でのコミュニケーションが難しいため、それを代替するための手段を模索せざるを得なくなると考えています。オンラインでコンテンツを届けやすいメディアを考えると、最も情報量が多いのは動画であり、既に利用者が急増しているZoomなどの会議システムだけでなく、YouTubeやSNSでの動画配信を新たに始めるユーザーが増えるのではないかと考えています。
動画のプロモーションは単体では中々難しいのですが、メールマガジン内でその告知をすればコンテンツも届けやすくなります。次に情報量が多いのはイメージ画像で、HTMLメールの配信やSNSの活用頻度もさらに増えると見込んでいます。
前田:情報を届ける手段としてのメールと、表現する手段としての動画をかけ合わせた活用方法などに注目ですね。今回は貴重なお話をありがとうございました。
▼この記事で用いられていたプ譜についてじっくり学びたい方はコチラ(連載1回目)