レガシー企業がデジタルマーケティングを苦手とする理由
前職で大手製造メーカーのコンサルティングをしていたので、デジタルマーケティングをしっかりと行っているレガシーな企業が存在することも知っています。また、「これから変革していきたい!」という熱い想いを胸に、まさにDXに取り組んでいる真っ只中の企業もあります。
ただ、これらの企業は例外的な存在で、歴史ある製造業においてはデジタルマーケティングに取り組んでいる企業は少ないのが実情です。従業員数が数千人を超えるような大企業のWebサイトを見るとWordで作ったであろう、紙のパンフレットをそのまま掲載したようなデザインだったり、トップページのメインビジュアルでフラッシュがバーンと登場し、モバイルファーストを気にしないものだったりしますが、レガシーな業界であれば、これが普通です。「今時なぜ?」と思われるかもしれませんが、背景と理由があります。そうした企業/業界は、これまでは「マーケティングを必要としなかった」のです。たとえば当社も関わりが深いモビリティ業界は、大手自動車メーカーを頂点として、直接部品を提供する1次サプライヤーのTier1、2次サプライヤーのTier2、というようにピラミッド構造になっています。ちなみにこれは、ケイレツ(keiretsu)という言葉が英語として定着しているほど、よく知られた産業構造です。
この構造において、部品メーカーは自動車メーカーだけでなく、他の業界にも製品を提供しているケースもありますが、自動車メーカーとだけ取引している場合も多々あります。そうなると、新規見込み客をマーケティング活動で獲得してくる、ということよりも「お引き合い」や「すり合わせ」によって昨年よりもより多くの部品を同じ企業に提供するほうが重要となってきます。SaaSモデルのように直接顧客に販売したり、パートナーを介して販売するというようなモデルとは状況が大きく異なるのです。
このような構造は、様々な業界で見られます。たとえば、自治体からの入札案件を主に扱っている企業や、協会で案件を取りまとめてから各企業に配分するような業界もあります。

本気のDXならベクトルを外側にも向けよう
とはいえ、レガシー企業も新規見込み客がまったく必要ない訳ではないので、展示会を中心に見込み顧客の獲得活動をしています。本当に獲得したいリードは、製品開発の責任者だったりしますので、展示会で巡り合うことはなかなか難しいのですが、獲得した接点から時間をかけ、細い糸をたぐり寄せていきます。
その最初のキッカケ作りとして有効だった展示会が、コロナショックで軒並み中止になっています。経済に与えた負のインパクトは想像以上に大きく、飲食店や観光業だけでなくモビリティ業界に対しても大きな打撃を与えています。このような状況下で私たちは、自粛が解除され、今まで通り、もしくは今まで以上の好景気の到来を期待して待っているだけで良いのでしょうか。
コロナショックによって、今後のライフスタイルは大きく変わります。自粛が解除されたとしても、マーケットの環境は以前と同じ状態にはならないでしょう。そしてこうした変革が訪れると、思い出したかのように「今こそ、ハンコをやめるぞ!」「ペーパーレスで決済を回せるようにしよう」と、DXの話が浮上します。業務効率を高め、経費を下げる取り組みももちろん重要ですが、こうした取り組みのベクトルは会社の内側に向いています。本気で変革をするのであれば、外側に対してもそのベクトルを向けて、売上を増やすための取り組みや、今までと違う形で新規顧客を獲得する仕組みを構築することも重要です。そうです、レガシー企業は今こそデジタルマーケティングに取り組むべきなのです。
