ナラティブはSNS運用における最も基本的な概念
次にSNSについて触れたい。そもそもマーケティングの世界でナラティブが注目されるようになったのは、SNSの広がりによる影響が大きい。SNSによって一人ひとりの主観性が語られるようになったことで、今では驚くほど多くの割合で第三者の購買意思決定に影響を与える要因になっている。
そこで企業としてもSNS運用が大事だという話になるのだが、ナラティブは前述の通り、自分たち(ここでは企業)が選ばれるための直接的で恣意的なコントロールはできない、しないという前提に立つ。
それでもやはりハンターとしての性分が顔を出してくる。SNSという人溜まりを、絶好の“狩り場”と捉えてしまうのだ。まずハンターはSNS空間の中で、自分だけの「いけす」を作るところから始める。具体的には、「フォローしてくれたら……」「RTしてくれたら……」という要請型・強制型のキャンペーンだ。
これはまさに「餌と魚の関係」である。アカウントフォローの代わりに何かを提供するような、一度「お得」で結びついてしまったユーザーと、「お得」以外の関係性に持ち込むことは、私自身の経験則からして非常に難易度が高い。元々素晴らしいブランドエクイティがあり、あからさまな撒き餌を必要としない場合や、そもそも「お得」の提供がビジネスの中核になっていれば話は別であるが、そうでない場合は注意が必要だ。
実際、当社アカウントのNPSアンケート調査によると、「お得」を機に結びついたユーザーは、その後の継続的な「お得」が減ったことに対する不満を露わにしている。それでは今後も末長く利用して頂けるような信頼関係の構築には不向きではないかと思う。

SNS活用の目的を「いけす」作りのように捉えるのではなく、自社へのポジティブな言及を増やすことと設定するならば、フォロワー数は最重要の指標ではなくなり、施策の方向性も大きく変化する。たとえば、安易に話題化を狙うのではなく、誰もが心から良いと思える情報をコツコツと発信し続けること。そしてより本質的には、思わずSNSで発信したくなるような素晴らしい体験価値を本業で提供することに尽きる。
インセンティブ等の外発的動機によるものではなく、体験価値をともなう内発的動機によるナラティブな語りの中にいかに存在していくか。うそが見破られる外部環境だからこそ、SNSでは本質的な信頼関係の素地を作ることが求められている。
対話を前提としたコミュニケーション発想へ
MAツールに接続するチャネルやSNSは、対話を前提としたコミュニケーションプラットフォームである。そのはずなのに、テレビやオンライン広告のように企業から消費者への一方的な情報発信チャネルとして扱われることに違和感を抱く。
当然、情報発信自体は企業側に期待されていることであり、1対無数の関係の中で双方向のやり取りをすべて人が行うことには限界はある。それでも今回取り上げた「ナラティブ」という考え方とテクノロジーを用いれば、対話を前提とした本来のコミュニケーションの姿に施策を転換していく新たな発想が生まれてこないだろうか。私はその可能性に期待せずにはいられない。
次回はオウンドメディアの真価について深掘りしたい。