世の中の流行りゴトは人間の“悪”の側面を突いている
今回紹介する書籍は、『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』。著者のデータサイエンティスト・松本健太郎氏は、デコムなどでデジタルマーケティング、デジタルマーケティング や消費者インサイトに関わる業務に携わった後、現在は報道機関のJX通信社にてマーケティング全般を担当しています。
本書は世の中のヒットやブームが生まれた要因を「データサイエンス」「認知心理学」「行動経済学」を基に分析。そこには必ずと言っていいほど、人間の“悪”の側面を突いたポイントがあったそうです。
「人は合理的ではない」 善と悪のせめぎあい
同氏はマクドナルドの商品「サラダマック」と「クォーターパウンダー」を例に挙げています。
サラダマックは2006年に誕生。「ヘルシーなサラダが食べたい」というお客さんの声(データ)を具現化したのだそうです。しかし、同商品は期待に反してほとんど売れず、あえなく販売終了となりました。
サラダマックの失敗のあと、マクドナルドは2008年にクォーターパウンダーを発売。従来のハンバーガーの2倍以上ものサイズのこの商品は大ヒットしました(現在は終売)。その後も、マクドナルドは「グランドビックマック」「ギガビックマック」とあえて“不健康そうな商品”を開発していきます。
この例を基に同氏が述べているのは、「データは事実だが、真実とは限らない」「人間は合理的ではない」ということ。マクドナルドのお客さんは果たして本当に、ヘルシーなサラダが食べたかったのでしょうか? ビジネスパーソンは、人は自分にとっての良い意思決定=善しか選ばないという考え方に陥りがちですが、人の内面には身体に悪い食べものをガツガツと貪りたいと感じる「悪」の欲求も、潜んでいるのです。
「不健康かもしれないけれど、美味しいからやめられない」。マクドナルドのクォーターパウンダーを始めとする商品がヒットしたのには、こうした背徳感に理由があるのかもしれません。
本書では他にも、「意識高い系」と呼ばれる人たちがNewsPicksを使う理由、ホリエモンこと堀江貴文氏の強い物言いが受け入れられる理由、近年『FACTFULNESS』(A.ロスリング 著/日経BP)が世界中でベストセラーとなった理由など、世の中のヒットやブームがどのように生まれたのかを分析。消費者が「つい買ってしまう」法則を解説しています。
データサイエンティストでありながら、データは胡散臭い存在だと語る同氏。本書を通して、データだけに踊らされない洞察力を身に着けてみてはいかがでしょうか。