「DX」「D2C」事例から学ぶべき3つのポイント
ここまで紹介してきた事例から読み取れるポイントは3つある。
1つ目はディスラプターであろうが、DXに成功した企業であろうが、デジタルシフトに対応する経営者の意思決定と実行が迅速であるということである。デジタルシフトはあらゆる方向から、突然かつ加速度的に襲ってくる。じっくり検討・判断、では間に合わない。ウォルマートの事例で見たようにコストもかかる。やはりこの点は創業者やオーナー経営者、卓越したプロのCEOの強さが目立つ。

2つ目は、顧客との直接的なコミュニケーションや体験の接点、顧客への直接的な販売やサービス提供のチャネル、製品やサービスの使用後の評判や感想の取得などの「D2C」の仕組みを持つことだ。これにより、企業からの自発的なコミュニケーションやブランドとの顧客体験の機会の創出、販路の獲得、および意思決定やマーケティングに必要なあらゆる情報の獲得が、「顧客と直接的に」「個人単位で」「大量に」「即座に」「継続的に」行うことができる。
これらのことはデジタル化以前では不可能であった。言い換えれば、ディスラプターもDX化した企業も、デジタルシフトを最大限活用して、究極の「D2Cモデル」を創造したといっていい。
3つ目はD2Cで得られた顧客の声を聞き、そのニーズにとことん応え、改善を繰り返し、プロダクトやサービスを徹底的に研ぎ澄ましていったことである。小売店経由の場合、直接的に顧客の声は届きにくい。D2Cの仕組みがあったからこそ、プロダクト、サービスまたそのビジネスモデルを常に磨き上げていくことができたと言っていい。
今後もD2Cは、デジタル化がますます進み、しかもコロナ渦の「ニューノーマル」に対応していかなくてはいけない将来においても、ビジネスやマーケティングを考える上で不可欠なテーマとなる。
今後のマーケティングに欠かせない、5つの不可欠な要素
このD2C、実践する上で必要不可欠な要素が5つあると筆者は考える。これらはビジネスやサービスごとのD2Cにおける必須な要素であるが、企業経営やマーケティングのDX化の視点においても、今後常に考慮すべき事項である。
1.顧客との直接的なコミュニケーションや顧客体験の接点を持つ
・インターネット広告、ソーシャルやオウンドメディア、コンテンツ配信など
・自社でコントロール可能
・特にSNSなどにおいてパーソナライズされたコミュニケーションと体験が可能となり、そのブランドやプロダクトの世界観の醸成が可能で、熱狂的なファンを生む
・実店舗やイベントも、リアルでブランドの世界観を醸成するために必須
2.製品・サービスを販売または提供するための顧客への直接的チャネルを保有する
・EC、オンライン販売、オンラインサービス提供
・直販モデル(直販店舗、通信販売)
・世界観、利便性を伝えるためにUI/UX重視
・リアル×オンラインのオムニチャネルの実践(ショールーミング、Webルーミング)
・物流、宅配
3.顧客の購買含めた行動データ、心理データを獲得する
・行動データ:POSデータ、調査会社の購買データ(購買者不明、パネルデータ)に加え、自社EC購買データ、広告配信・閲覧データ、Eメール開封率、コンテンツ閲読率、返信率、Webやアプリのアクセス情報、ソーシャルログ、位置情報
・心理データ:ブランド認知・好意度、購入意向(個人アスキング、パネル)
4.製品やサービスを購入、使用、利用した顧客の評価、反応のデータを獲得する
・SNSなどでの評判、反応、発信
・レビューページ
・ユーザーコミュニティー
・コールセンターやお客様窓口(クレーム、使い勝手)
5.これらのデータや結果をマーケティング改善やCRM、製品開発に活用する
・PDCAを実践する仕組み、ツール、体制
今後は、カスタマージャーニー全体にわたって、オンライン経験とオフライン経験のシームレスな体験を、継続的に提供し続けていくことがますます重要になってくる。企業のマーケティング活動は、ますます「複雑化」「高度化」「煩雑化」「多頻度化」「恒常化」していく。そのため、どこまで社内体制を組んで自社で行い、どこから外部に委託するのか、その選別が重要になる。