『数』と『率』の観点で“顧客の行動プロセス”を可視化
Growth methodに基づいてデータマーケティングを進めた総合小売店は、業界でもトップクラスの売上規模を誇る有名店だという。全国に大型店舗を20店舗以上展開すると共に、ECサイトも持っているが、世の中のデジタルシフトが進むなかで、EC化率が低いことが問題となっていた。
カード会員、EC会員数の合計は約500万人。これらは実際に顧客とつながり、顧客情報を取れているユーザーとなる。このプロジェクトでは、低いEC化率の改善を目指し、約500万人のユーザーに対してどのような強化アプローチが取れるのかがスタートだったという。
最初にやるべきFunnelという工程は、「『数』と『率』という2つの観点で、顧客の行動プロセスを操作可能な変数に変えていく」というもの。三浦氏は「『認知から、継続購買してもらう』という行動プロセスを考えると、様々な“歩留まり”があるはずです。第1段階のFunnel工程では、顧客の行動プロセスをなるべくすべて数値に置き換えて可視化し、歩留まりの状態を確認することが必要です」と説明する。
講演では、Funnelによるプロセス数値の可視化の例が説明された。認知度調査などができない場合にも、認知フェーズに近い数値、たとえばimp数、自然検索数、またはリアル店舗に来店した人数などの数字で代用することも可能である。同じように、このプロセスを『率』で見ると、来店率や離脱率といった指標が取れる。初めての購入や登録では、購買人数や会員登録人数などの『数』、『率』でいえば購買率や登録率などが考えられる。
「この段階で、あらゆる数字を可視化していくことが重要です。上の図以外にも、企業や業種によって可視化すべき数値は異なるので、書籍などを参考に自社に合った数値・歩留まりを出していきましょう」と三浦氏はアドバイスする。
洗い出したデータから“改善につながるKPI”を見つける
次の「bottleneck」は、洗い出した数字に基づき、改善に最もつながる“お荷物KPI”を見つけ出す工程だ。今回のA社の場合、「リピート率」と「リアル店舗利用者のEC初期利用率」、そしてそれらと関連する指標「1人あたり年間購入額」がボトルネックとなっていたという。
ここにどう手を付けるのか。それを明らかにするのが3番目の「Microscope」というプロセスになる。
これは、解像度を上げてbottleneckの原因を探る分析作業となる。たとえば今回の場合、年間購入額は、「平均購買単価」と「平均購買回数」に分解できる。この数字が上がらない原因を詳細に見ていくのが、このMicroscopeだ。
「A社では、平均購買単価と平均購買回数の両方が高い顧客群をロイヤルカスタマーと定義しました。そして、そのロイヤルカスタマーの行動を詳細に分析すると、A社の利用について、店舗とECいずれかに偏っているグループ群と、店舗もECも併用しているグループとで、単価や回数に大きく差があることがわかったのです」(三浦氏)
この結果により、A社では「どちらか一方だけしか利用しない群に対し、もう1つのチャネルを使うように促すことで、年間合計額を増やしていけるのでは」という具体的な仮説が生まれた。このように、bottleneckの原因を仔細に見て、データから有用な仮説を組み立てるのが、Microscopeの役割だ。
このA社の場合、500万人のカード会員/EC会員のうち、店舗のみの利用者が450万人だったという。データで見ると、このうち3%の人がECで購入するだけでも、11億円売上が増加すると予想されるので、この割合を増やしていけば売上のインパクトはさらに上昇する。
三浦氏は「こうしたことがわかるのも、データを統合しているからです。データを統合していたからこそ、顧客軸、購買額、利用チャネルなど様々な視点で分析し、仮説を組み立てることができました。そのためMicroscopeにデータ統合は欠かせません。ただこのプロセスは、時間をかければ誰でもできるので、bottleneckを見つけたらすぐにMicroscopeを行うことが大切です」という。