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MarkeZine Day 2020 Autumn(AD)

データ活用で売上をアップする企業の“法則”とは? 成果を上げる6つのステップと落とし穴

 2020年9月1日・2日にオンラインで開催された「MarkeZine Day 2020 Autumn」では、不確実性が高まる今日、成果を上げて時代を切り開くための様々な調査結果やノウハウが共有された。本記事では、データマーケティングプラットフォーム「b→dash」を提供するフロムスクラッチが、同社の経験を基に確立した、データマーケティングの成果を上げる独自のフレームワーク「Growth method」について、具体的な事例をベースに解説したセッションの様子をお届けする。

コロナ禍で高まる、データマーケティングの重要性

 「マーケティング戦略は“感覚”に頼るのではなく、客観的に判断できる“データ”を軸にして戦略を考えるべき」。この前提に、異論を唱えるマーケターは少ないだろう。

 そのデータマーケティングが、コロナ禍においてますます重要性を増しているという。「MarkeZine Day2020 Autumn」に登壇したフロムスクラッチの久住拓也氏は、企業を取り巻く直近のマーケティング状況について「仕事や学校を含めて外出自粛が叫ばれるようになり、社会活動のデジタルシフトが進んでいます」と分析したうえで、次のように説明する。

 「社会活動のデジタル化が進むに連れ、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)も一層加速しています。そこで収益を上げていくため、データ活用の重要性がより増すようになりました。そのためこれまで以上に、データマーケティングが注目されているのです」(久住氏)

株式会社フロムスクラッチ b→dash Marketing Unit 久住拓也氏
株式会社フロムスクラッチ b→dash Marketing Unit 久住拓也氏

 実際、DX化を目指すなかでデータマーケティングを強化したい企業が増え、フロムスクラッチにも多数の問い合わせが寄せられているという。フロムスクラッチが2015年5月から提供しているデータマーケティングプラットフォーム「b→dash」は、小売・流通から金融、人材サービス、スポーツまで幅広い業種で利用されているソリューションだ。同社はこの幅広い実績を基に、企業のデータマーケティングを成功に導く独自の“フレームワーク”を持っている。

 久住氏によると、このフレームワークは「データを使ってどのように収益を上げていくか」、その具体的な行動をステップ化して落とし込んだものだという。これを同社では「Growth method」と呼んでいる。

データマーケティングを成功に導く6つのステップ

 Growth methodとは、具体的にどのようなものか。このメソッドは、様々な業種や企業の「b→dash」導入・活用プロジェクトに従事してきた経験から導かれたもので「成功する企業は、データマーケティングの成功に当たって、6つのステップを踏んでいるという共通項があります」と久住氏は説明する。

 そのステップとは、(1)Funnel(ファネル)、(2)Bottleneck(ボトルネック)、(3)Microscope(マイクロスコープ)、(4)Reverse(リバース)、(5)Unrefusable Offer(アンリフューザブル・オファー)、(6)Operation(オペレーション)の6つだ。これは簡単にいえば、データを分析して問題点を洗い出し、その問題点を改善に導くKPIを定め、実行し、その結果を分析していくプロセスになる。つまり一般的にいわれているPDCAだが、単純にPDCAを回すだけでは、期待した成果がすぐに得られないことが多い。

Growth method 6つのステップ
Growth method 6つのステップ

 このGrowth methodは、一般的なPDCAのプロセスを細分化すると共に、その過程で行うべきデータの見方や調査のやり方、注目ポイントを加え、迅速に成果が出るように考案されたものだ。その具体的な進め方について、久住氏に続いて登壇したフロムスクラッチでCMOを務める三浦將太氏が、実際にある「ECと実店舗を運営する総合小売店A社」のデータマーケティングの事例を紹介しながら説明した。

『数』と『率』の観点で“顧客の行動プロセス”を可視化

 Growth methodに基づいてデータマーケティングを進めた総合小売店は、業界でもトップクラスの売上規模を誇る有名店だという。全国に大型店舗を20店舗以上展開すると共に、ECサイトも持っているが、世の中のデジタルシフトが進むなかで、EC化率が低いことが問題となっていた。

 カード会員、EC会員数の合計は約500万人。これらは実際に顧客とつながり、顧客情報を取れているユーザーとなる。このプロジェクトでは、低いEC化率の改善を目指し、約500万人のユーザーに対してどのような強化アプローチが取れるのかがスタートだったという。

 最初にやるべきFunnelという工程は、「『数』と『率』という2つの観点で、顧客の行動プロセスを操作可能な変数に変えていく」というもの。三浦氏は「『認知から、継続購買してもらう』という行動プロセスを考えると、様々な“歩留まり”があるはずです。第1段階のFunnel工程では、顧客の行動プロセスをなるべくすべて数値に置き換えて可視化し、歩留まりの状態を確認することが必要です」と説明する。

 講演では、Funnelによるプロセス数値の可視化の例が説明された。認知度調査などができない場合にも、認知フェーズに近い数値、たとえばimp数、自然検索数、またはリアル店舗に来店した人数などの数字で代用することも可能である。同じように、このプロセスを『率』で見ると、来店率や離脱率といった指標が取れる。初めての購入や登録では、購買人数や会員登録人数などの『数』、『率』でいえば購買率や登録率などが考えられる。

 「この段階で、あらゆる数字を可視化していくことが重要です。上の図以外にも、企業や業種によって可視化すべき数値は異なるので、書籍などを参考に自社に合った数値・歩留まりを出していきましょう」と三浦氏はアドバイスする。

洗い出したデータから“改善につながるKPI”を見つける

 次の「bottleneck」は、洗い出した数字に基づき、改善に最もつながる“お荷物KPI”を見つけ出す工程だ。今回のA社の場合、「リピート率」と「リアル店舗利用者のEC初期利用率」、そしてそれらと関連する指標「1人あたり年間購入額」がボトルネックとなっていたという。

 ここにどう手を付けるのか。それを明らかにするのが3番目の「Microscope」というプロセスになる。

 これは、解像度を上げてbottleneckの原因を探る分析作業となる。たとえば今回の場合、年間購入額は、「平均購買単価」と「平均購買回数」に分解できる。この数字が上がらない原因を詳細に見ていくのが、このMicroscopeだ。

 「A社では、平均購買単価と平均購買回数の両方が高い顧客群をロイヤルカスタマーと定義しました。そして、そのロイヤルカスタマーの行動を詳細に分析すると、A社の利用について、店舗とECいずれかに偏っているグループ群と、店舗もECも併用しているグループとで、単価や回数に大きく差があることがわかったのです」(三浦氏)

 この結果により、A社では「どちらか一方だけしか利用しない群に対し、もう1つのチャネルを使うように促すことで、年間合計額を増やしていけるのでは」という具体的な仮説が生まれた。このように、bottleneckの原因を仔細に見て、データから有用な仮説を組み立てるのが、Microscopeの役割だ。

 このA社の場合、500万人のカード会員/EC会員のうち、店舗のみの利用者が450万人だったという。データで見ると、このうち3%の人がECで購入するだけでも、11億円売上が増加すると予想されるので、この割合を増やしていけば売上のインパクトはさらに上昇する。

 三浦氏は「こうしたことがわかるのも、データを統合しているからです。データを統合していたからこそ、顧客軸、購買額、利用チャネルなど様々な視点で分析し、仮説を組み立てることができました。そのためMicroscopeにデータ統合は欠かせません。ただこのプロセスは、時間をかければ誰でもできるので、bottleneckを見つけたらすぐにMicroscopeを行うことが大切です」という。

ユーザーが「やらない理由」を尋ね、原因を潰していく

 仮説を導き出したら、次にやるべきは具体的な施策作りだ。そのプロセスが「Reverse」となる。三浦氏は「このプロセスは非常に重要です。最低限、Reverseをやるだけでも数字はかなり上がるはずです」と力説する。

 具体的に何を行うのか。これはbottleneckの逆側(リバース)に注目するプロセスになり、今回の例に従って具体的にいうと、「なぜEC(店舗)を使わないのか」という理由に着目することだ。

 この解答を洗い出す施策として有効な手段の1つが、ユーザーボイス分析だ。端的にいえば、直接ユーザー自身に理由を尋ねることとなる。たとえば今回、ユーザーに「なぜEC(店舗)を使わないのか」と聞いたところ、「ECを利用する必要がない」「欲しい商品がECにはない」という答えや、「ギフトしか買わないからECで十分」「店舗の商品は高い」という回答が得られた。

 こうして理由がわかったら、次はこれを潰していく作業に入る。これが「Unrefusable Offer」、日本語で言うところの「絶対に断れない提案」だ。

 「ECを使う理由がない」のであれば、EC限定クーポンを店頭で手渡す、「欲しいものがない」のならEC限定商品を出す。このように「やらない理由」を徹底的に潰していくことで、望ましい行動を促進するわけだ。

 三浦氏は「ユーザーの行動解析ができればいいですが、それができないなら、早い話、ユーザー自身に直接理由を聞いてしまうのが有効です。そこで導かれた“購入しない理由”をなくしていくだけで成果は出ます。一見、当たり前のことですが、この“当たり前”をやっていない企業がかなり多い。これをやるだけで、かなり数字は上がるので、ぜひやってみてください」という。

 最後の「Operation」は、施策を実施してKPIモニタリングするプロセスだ。日次でKPIのモニタリングを行い、共有する体制を作ることで、現場の感度はかなり上がる。今回のプロジェクトでは、「b→dash」を用いてデータ統合や分析、モニタリングの結果共有を行うことで、購買回数と購買合計額が改善し、店舗・EC相互利用顧客数は137%増、年商約25億円の増加につながったという。

 このフレームワークについて、三浦氏は「ポイントは、『当たり前のことをきちんとやる』ことにつきます」と断言する。

 「もしすべて行うことが難しいのであれば、まずはfunnelですべてを数値化して歩留まりを洗い出し、数字を良くするためのUnrefusable Offerを考えること。この2つだけでも、数字が上がることを実感できます」(三浦氏)

成果が得られないのなら、この落とし穴を疑え!

 一方、この6つのステップを着実に進めても、なかなか効果が出ない場合はどうすればいいのか。再び登壇した久住氏によると、データ活用には2つの落とし穴があるという。

 1つは、データが統合されていないこと。特に3番目のMicroscopeのプロセスでは、すべてのデータが統合されてこそ、施策につながる有効な仮説を見つけることができる。逆にいえば、データが分断されていると、ボトルネックが生じる根本的な原因を発掘できなくなる可能性が高い。そのため、様々なシステムに蓄積されており、フォーマットもバラバラのデータを統合できるデータ基盤が必要になる。

 もう1つ、データ統合基盤を導入しても、その後の運用で落とし穴にはまる可能性がある。具体的には、データ統合基盤と、そのデータを活用するシステムとの連携作業だ。

 このデータ連携作業は、データが蓄積される限り続くもの。データを取り込み、変換して統合する作業で、ある企業をモデルケースにすると380時間もの作業工数が必要になるという。この場合、データ連携を簡素化するツールを使うことで、工数をかなり削減できるという。

 成果を出すためのステップを、段階的に進めていき、落とし穴にはまらなければ、データを活用したマーケティングは早い段階で結果を出す。結果がなかなか実感できないのであれば、どこかに問題がある可能性が高い。最後に久住氏は、「データマーケティングに精通し、ノウハウを持つパートナーに相談すれば、その問題点を早めに見きわめることができるでしょう」と述べ、「ツールやパートナーの有効活用も視野に入れた戦略を」と勧め、講演を終えた。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/12 11:00 https://markezine.jp/article/detail/34302