最先端の技術を駆使しつつ、オールドメディアとも協調する
有園:高木さんご自身は、制作される中で特にどういったところが印象的でしたか?
高木:いくつかありますが、大きく2つ挙げると、まず鮮やかだったのは有園さんの感想のように「デジタルの強さ」ですね。捜査機関やオールドメディアが手をこまねく中、公開情報から捜査して容疑者まで特定するのですから、そこまで解明できるんだと素直に驚きました。ここには実は彼らのアナログな努力もあります。事件を捉えた映像の背景に映り込む山の稜線とかも、自動で検出できるわけではないので、Googleのストリートビューなどを使って手探りで照合していくんです。
2つ目は、最先端の技術を駆使しながら、オールドメディアと対立するのではなく協調の姿勢を前面に出していることです。べリングキャットの若手メンバーがオールドメディアに勤め始めていると話しましたが、番組でBBCの女性上司にインタビューしたところ「私にはテクニカルな仕組みはわからない、けれどオープンソース・インベスティゲーションのチームは絶対に必要」と答え、その功績を認めている様子がうかがえました。
BCCやNYTなどとはもちろん、国際捜査機関のような、オールド権力とも言うんでしょうか、そうした機関とも連携しています。
有園:一緒に捜査をしている?
高木:というわけではないのですが、彼らも彼らで自前捜査に自信もプライドもありますから。ただ、マレーシア航空機の事件などは、捜査当局が会見で「べリングキャットの捜査も参考になった」的なことに言及してはいました。それだけでも大きいと思いますね。べリングキャット側も、捜査当局の突き止めたことと符合することを歓迎し、ヒギンズ氏も捜査当局の会見の場にいて満足そうな表情を見せるなど、融合する姿勢があると感じます。
メディア報道の信頼性が、一般生活者のUXを左右する
有園:もうひとつ今日高木さんとの議題にしたいのは、こうした市民ジャーナリズムが興る一方で、近年、ストーリーありきの恣意的な編集がSNSで暴露され、「マスコミの報道がひどい」という批判が増えていることです。いわゆる街頭インタビューで数分にわたり答えた、そのたった一言を文脈を無視してポコッと台本にあてはめるような。“マスゴミ”と呼ばれたりしていますよね。
高木:それは、古くて新しい問題ですね。作り手の意志と、編集と、取材される側の気持ちをどう捉えるか。
有園:そうか、別にSNSで何でも暴かれるからこその問題ではないわけですね。昔からこういうことはあったと。
この点に注目したのは、今の私の仕事の中で「ユーザーエクスペリエンスの向上」は大きなテーマなんですが、メディアの報道に信頼性があるかどうかは、一般生活者のUXを左右すると思うからです。デジタルジャーナリズムやデータジャーナリズムの概念が、一層重要になってくる。と同時に、一般の皆がスマホをもってどこでも写真や動画が撮れるようになったことで、意図しない形での“総ジャーナリスト化”も気になります。非常にきゅうくつな、相互監視社会とも言えると思います。
高木:なるほど、わかります。