どの道具で誰に取材しようと誠実であるべき
有園:その流れを踏まえても、マスコミ側は取材対象者が意図しない形で切り取るのではなく、素材を倫理的に正しく活用することで、あるべきジャーナリズムを示していく必要があるだろう……と思うのですが、どうですか?
高木:その考えにはもちろん同意です。ただ、有園さんもそういう意味で言われているわけではないと思いますが、取材をする以上、作り手に意図がないことはないし、編集しないこともあり得ない。それに、たとえば街頭インタビュー、これを街録(がいろく)と言ったりもしますが、仮に10分収録したものをそのままテレビで流せるわけはありませんよね。ネットに素材を公開したところで、膨大な時間をくまなくチェックできる人なんていません。
作り手がいて、編集が入る前提で発言をしたなら、次の瞬間からもう発言者の手元からは離れてしまう。取材だけでなく、たとえば私の著書も、私の手を離れたらもうその先にどう読まれようとどんな感想を書かれようと、私がコントロールできるものではありません。……とはいえ、もちろん「発言したら行く末は委ねるしかない」という姿勢を一般の方に要求するのは行き過ぎですから、恣意的な行為は暴かれるのだという前提で、作り手側がこれまで以上の誠実さをみずからに課すしかないですね。
有園:相手の意図をちゃんと汲み取って。
高木:これはジャーナリズムの世界で常について回る問題ですね。意図はあって当然なのですが、どのメディアで誰に取材しようと、誠実であることは大前提です。

デジタル時代の新しい報道ビジネスの形
有園:一般人の意見を軽んじて自由自在に編集する一方、権力側には忖度した編集がなされる、なんてことも……。
高木:いけないですよね、当然。今後デジタルジャーナリズムが広がり、報道に携わる人材が多様化しても、普遍の報道倫理は維持されるべきだと思います。今回の番組を見た人の中には、彼らのジャーナリストとしての経験値を疑問視する人もいましたが、私が見た限りではべリングキャットのような技術に長けた優秀なオタクの方々は高いプロ意識で調査にあたっています。なので、いま現れつつある「デジタルハンター」であろうと、オールドメディアであろうと、報道の倫理の問題については等しく注意すべきだと思います。
有園:そうかもしれないですね。NHKの立場からは言いづらいかもしれないですが、高木さんとしてはデジタルジャーナリズムを日本のメディアももっと取り入れていくべきだと思いますか?
高木:もちろん、そうですね。NHKや私がこの番組の制作当時出向で所属していたNHKグローバルメディアサービスなど関連団体も当然その重要性をわかっていますし、だからべリングキャットのワークショップに参加したりしているわけで。言いづらい部分があるとすれば、それは私が当事者の一員だからですね。自分たちがまだまだなのに、他の国内メディアに勧める立場でもない、とは感じます。
ただ、大きな流れであることは事実です。アイルランドのスタートアップ、ストーリーフルという会社は、世界各地で一般人がSNSなどで発信したニュースや動画をいち早くキャッチして積極的にコンタクトを取り、真実性を調査して担保し、権利関係と報酬までクリアしてメディアに配信するビジネスをしています。2013年、同社はウォール・ストリート・ジャーナルを傘下に持つ米ニューズ・コープに買収され、今も独立部門としてそれこそBBC、NYT、CNNのすべてと契約しています。こうしたことが国際的な報道機関では当たり前になっています。
有園:権利や報酬までクリアしているなら、フェイクニュースを流してしまうリスクもないわけですね。
高木:そうですね。日本も大手を含め一部メディアが契約しています。このスタートアップ出身の国際的なデジタルハンターもいますし、本当はこうした情報ビジネスも日本発で世界に乗り出すくらいであってほしいのですが、やはり総じて海外の潮流に対して日本は遅れているので、追いつかなければ。自戒を込めて、今後も精進したいです。
