DXに求められる「IT部門との融合」と「大義の追求」
――デジタルトランスフォーメーションを推進していくうえでの組織づくりや人材育成の面で、課題に感じていることはありますか?
中野:組織に関してのポイントは、IT部門との融合だと考えています。
お客様のために全体設計をどういう形にするべきかIT部門と共に議論し、そこにオペレーション部門の要望なども把握しながらシステム構築をしていくこと。簡単なようで非常に難易度が高い課題です。
それには投資に対するベクトルを合わせ、オーケストレーションしていく必要がありますが、マーケティングを統合的にマネージする指揮者の役割をできる人が非常に不足しています。そうした人材を包有する難しさを感じているところです。
福田:不足を補うために外部から人を入れようとすると、テクノロジーの部分とブランドの魂みたいなもの、その両方をどうバランス良く整理できるかという問題が新たに生じたりしません? その点どうバランスを取っていますか。
中野:ANAにはお客様が喜ぶことに対して団結するカルチャーが根付いているので、その点はあまり問題に感じたことはありませんが、大義の追求に尽きると思います。外部の方のほうが社内の人間よりお客様の気持ちに寄り添えるケースも多々ありますからね。

組織内の価値観を混ぜ合わせる
中野:それとDXを本当に成功させたいのであれば、頭のつくりから変えないと難しいですね。DXというのは、組織風土改革と同義だと思います。
福田:結局のところDXは組織論なんですよね。だけど守りたい文化と、変えるべき部分が混ざってしまっていたり、古い脳みそを変えられないで上手くいかなかったりする。本当に簡単には実現できませんよね。
中野:だからこそ、色々な価値観が混ざり合わないと受け入れられるものにできないだろうとは思います。合理化や効率性を高めることを追求すればするほど、どうしてもサイロ化していくように感じるので、収益に直結しない施策にも「100%のマネタイズは無理でも投資分の2~3割は担保するんだよ」といったメッセージ性がないと成し遂げられないのではないでしょうか。
山上:組織として、マネタイズを追求する部門と、CE系の施策を推進するなどの投資をする部門を分けるのと、同じ部門の中でバランス良くやっていくパターン、どちらが良いと思いますか?
中野:私は後者だと思いますね。きっちり切り離すと、そこにおける責任やお互いの情報が分断される可能性があるので、つかず離れずほどよく干渉し合える距離を取るのが良いのではないでしょうか。
山上:そういうマインドというか、ほどよく両方を見られる俯瞰性を持った人材を育てていかないと難しいのかもしれませんね。
中野:そうですね。育成の時はニュートラルに話を聞いたうえで、全体最適として何があるべきかをジャッジすることと、端から否定せずに言っていることの本質を突き止めようとするマインドセットが若い頃から必要なのではと思います。
対談を振り返って、福田さん・山上さんからのコメント
DX実現には専門知識・人材が不可欠と言われますが、伝統的な日本企業の人材育成は色々な業務を満遍なく経験するジェネラリスト型が主流です。DXを企業内にしっかりと根付かせるためには全体を俯瞰でき、価値観を混ぜ合わせられる指揮者が必要で、そうした人材を育む上ではジェネラリスト型のキャリア経験が非常に役に立ち、強みに変換できると思いました。
キーパーソンがわかる、その人と直接コミュニケーションが取れる、味方になってくれるという貴重なネットワーク構築のためには、飲みにいくことで人間的な信頼関係を構築するだけでなく、仕事ぶりから大きな信頼を得ていたのだろうなと感じました。