心理的安全性のあるマーケティング組織が、事業成長に貢献する
足かけ4年。まだ道半ばであると塩見氏は前置きするが、組織変革の成果は確実に現れている。事業貢献度や組織コンディションを測る指標の向上が定量的に示されているそうだ。塩見氏がマーケティング担当役員に就任したことも、マーケターの組織作りが事業貢献になることの証明だろう。さらに、デジタルマーケティングだけでなく、テレビCMや交通広告などのマスマーケティングのチームも統合され、今年4月から総合的なマーケティング組織が構築されている。
とはいえ、すべてが順調に進んだわけではない。塩見氏は改めて、「振り返って大事だったこと」を挙げる。それは、組織をしっかりと知ることだ。塩見氏は、各事業会社へ入り、メンバーと一緒に働くことから始めている。同じグループでも、ビジネスモデルが異なる分、マーケティングもプロジェクトの進め方も違う。自身が持つ知識が役に立たないことがあると認識し、謙虚に学ぶ姿勢を意識したという。そうして、サービス・人・お金の流れを組織の中から理解した上で、マーケターを横に繋いでいった。
「いくら正しさを証明しても、情理がないと合理は通りません。組織作りに重要なのは、少なくとも“あの人は悪い人ではなさそう”という信頼を得てから、はじめること。そのためには、敵ではないです、味方になりたいんですということの必死のアピールが必要です。心理的安全性の確保が重要なのは、あらゆる組織に共通です」(塩見氏)
シニア層と若手層の長所を強化するコラボレーションの関係が理想
セッションの終わりには、聴講者から組織作りにまつわる多くの質問が寄せられた。特に関心が高いテーマは、まわりを巻き込みながら進める組織変革の方法だ。塩見氏は「自分が採った方法は、無理に大きく巻き込まず、課題がありニーズがあるところから小さく始めるという方法」と語った。
たとえば、高い専門性を持つマーケターやデザイナーの育成に課題を抱えている事業軸組織があった。そこへ、塩見氏は「人材育成はお任せください。そのために人事権を譲渡してください」という案を提案する。すると事業長は、ビジネスに集中できるわけだ。「共感を得られた部署から組織変革を進め、次第に成果が現れると、他の部署も賛同してくれる」と塩見氏。また、「組織作りに向いている人材とは?」の質問に対しては、「粘り強さのある人」と答えた。前述したとおり、組織作りは情理に重きを置き信頼を得てから、小さく始めて拡大していくやり方が重要だ。つまり、焦ってはうまくいかない。組織を作ることに、おもしろさと興味を持ってコミットできる人が適している。
締めくくりに塩見氏は、変化が激しいDX時代を勝ち抜くため、ひとつの提案を行った。それは、従来の年功序列ではなく、ベテランのシニア層と若手層が手を取り合い、お互いの長所をコラボレーションする関係を作ることだ。実際にリクルートでは、ボトムアップな異能のプロ集団の中に、シニアと若手のコラボが生まれ、成果が現れている。「大好きなインターネットの力は、世界を変えられると信じている」と塩見氏。そのためにも、「これからの組織には、上下ではなく横のコラボ関係が必要。自分たちもチャレンジを続けていきたい」と語り、セッションを終えた。