ボトムアップな異能プロ集団を作る、ハイブリッドな組織設計
「リクルートという会社は、マーケティング、特にデジタルマーケティングの予算規模が国内でも有数です。賢く使わないと無駄にしている額も国内トップクラスになってしまうし、規模がデカいということは賢くなるチャンスも多いわけですので『最強』を目指してみようとチャレンジしてきました」。こう語るのは、「最強マーケター集団を作る」という目標のもと、4年間にわたり同社の組織改革を率いてきた塩見直輔氏だ。
塩見氏には、2018年9月に行った「MarkeZineDay 2018 Autumn」でも、組織づくりの途中経過をお話いただきました。当時のイベントレポートはこちらから。
塩見氏はまず、「最強マーケター集団」の基本コンセプトに「ボトムアップな異能プロ集団」を打ち立てた。デジタルマーケターを取りまく環境は、変化が著しく、獲得したスキルの消費期限が早いという現実がある。また、若手のほうがデジタル領域に詳しかったり、広告配信の入札や予算配分といった経験則が物をいう領域もAIに取って代わられたりと、マーケターのキャリア構築は悩ましい。自身も同様の悩みがあったと話す塩見氏は、「多様な力を持ったプロが集まり、自ら考えて動くボトムアップ型の組織が強いのではないか?」と仮説を立て、組織変革に取り組んできた。
塩見氏が室長を務めるマーケティング室は、一般的な組織設計に見られる事業軸と機能軸の機能を兼ね備えた、ハイブリッド型だ。マーケターは、分社化された各事業会社と、ホールディングスのリクルート直下に置かれた、同室の両方に所属する。「各カンパニーのマーケターを横串で繋げることで、人材流通や知見の共有ができる」と塩見氏。事業運営の決裁権は事業長、人事権は機能長と、上長の役割分担を明確にすることで、指示系統の混線回避を狙った。マーケターは基本、事業長のもとで日々の業務にあたり、異動やキャリア構築に関しては、機能長のマーケティング室長に相談する仕組みだ。
一人のマーケターが、2つの組織に所属する。大胆な組織設計だが、結果として軌道に乗り、塩見氏は2017年から同様の座組でプロダクトデザインの組織変革も担当している。
「マウンティング禁止」「チャレンジの失敗は不問」を宣言
では、塩見氏は、どのようにして組織変革を進めてきたのだろうか。続いて、組織変革における5つの工夫が紹介された。
まず1つ目は、機能軸組織の専門性と事業軸組織が重視するビジネス貢献の関係性を明確にしたこと。どちらも等しく重要だが、あくまでもビジネス貢献が前提であり、専門性はビジネスの目的を果たすための手段と定義した。この判断軸があることで、事業会社とマーケティング室で意見が異なった場合も、健全な意思決定ができているという。塩見氏はそのポイントに、「機能長には、“機能は事業のために”を徹底できる人材のアサインが重要」と挙げる。
2つ目は、マーケティング室内に「マウンティング禁止」を宣言したことだ。マーケティング室には、別々の部署で活躍してきたマーケターたちが集うため、塩見氏はそれぞれのプライドによって対立も起こるだろうと考えた。しかし、そうした対立は企業の未来を考えると最も不毛であると考えた塩見氏は、自らが「他者をマウンティングした場合、評価を下げる」と語り、組織に意識付けを狙ったという。
3つ目は、施策の個別最適化を目指したこと。横並びの全体最適化よりも、多くのトライ&エラーから得られる学びを優先した。さらに塩見氏は、「トライがともなうチャレンジの失敗は不問。むしろ、評価します」とメンバーの背中を押すことに尽力したという。
「知見共有は、マーケティング室内に置いた各部長のミッションです。メンバーには目の前の業務に徹してほしいですし、特に失敗の共有は自発的には難しい。役割を分けることで、マーケティング室全体が底上げされることを狙いました」(塩見氏)