合理性に飲まれてはダメ
――デジタル上でクリエイティブを展開する際に気を付けるべきことなどはありますか。
我々は、デジタルの世界の住人になりつつあるので、その世界の中で何が起きているのかを広く察知することが重要だと思います。たとえばあるゲームが流行っているのなら、そこをSNSのように活用できないかと考えるなど、新しいものと既存のものの組み合わせを常に想像しています。
また気を付けないといけないと思っているのは合理性を求めすぎて安直なクリエイティブを作らないことです。様々な新興プラットフォームも洗練されてくると、皆が合理性を突き詰めるようになります。こうなると似たようなクリエイティブが数多く生み出され、結果的に差別化ができなくなり本来の目的を見失ってしまいがちです。
最近ではエンジニアがAIを活用したアートを作るなど、テクノロジーで突っ走ったクリエイティブも増えてきておもしろいと思っていますが、万人に使われる機能最優先のものを作る場合は別として、これまでになかった不確実なものを試してみる勇気がなくなると新しいものは生まれてきません。
――テクノロジーの使い方も、あまりに先行したものを提供すると相手がついていけないケースもあると思うのですが、どのようにお考えですか。
テクノロジーは、相手との距離感だけでなくギミックの多さなども検討する必要がありますが、私は常にユーザーのことを思って考えたものだけでなくてもいいと思っています。ユーザーの欲しいと思っているものが絶対ではなく、元々想定していた使われ方と違う形で成長したサービス・商品もこの世にはたくさんあります。実際にiPhoneやInstagramをはじめとした新しいユーザー体験が生まれるケースは、彼らが感じる問題や想像を超えた作り手のビジョンが先にあり、それに共感する小さなコミュニティが中心となり世に広がってきました。