キーワード2「エモい」「チル」
長田:キーワード2つ目は「エモい」「チル」です。Instagramなど、オンライン上でも、「エモい」雰囲気を演出したような投稿は増えていますよね。

崔:そうですね。視覚的な感受性が育まれたからこそ、意図的にビジュアルで演出する人が出てきたように思います。
昔はメディアそのものが少なく、メッセージの発信形態も限られていたのに対して、現在はメディアが多様化し、テキスト、画像、動画など様々な形式でメッセージが発信されています。
こういった環境の変化に合わせて感受性豊かな表現が徐々に育まれ、都度説明をしなくても、内面的な魅力を感じ取れるようになってきているのではないでしょうか。これは大人にも言えることかもしれませんが、デジタルネイティブのあいだで顕著に変化が起きている気がします。
長田:オンライン上でも、写真や動画からその人の魅力や波長を感じ取るスキルが高いですよね。
彼らにとってはSNSで友達を作ることが当たり前で、同じ学校に通っているけど面識がない子などに対し、Instagramのフィード投稿を見て「仲良くなれそう」と思えるとDMを送るようです。
崔:「エモい」や「チル」に関していうと、感受性が育っただけではなく、多くの人が共通したイメージを持つようになったのも大きいですね。
自分の思い出でもない写真を見ても「懐かしさ」のようなものを感じられるようになってきた。もっといえば、なんでもない写真でもフィルターをかければ、状況や感情を表現できてしまいます。

長田:“エモさ”に本来形はありませんが、フィルターで感情を表現できるし、それを理解する共感力も若者には備わっているんですよね。
私も大人に「エモい」「チル」を説明する時には、彼女たちがSNSに投稿している写真のなかの「エモポイント」「チルポイント」を解説するようにしています(笑)。
キーワード3「パーソナル化」
長田:3つ目は「パーソナル化」です。以前はマスな「時の人」に頑張って寄せようとするトレンドの傾向がありましたが、現在は情報元が多様化したため、自分にマッチするテイストを自ら選択できるようになりました。

長田:自分のことをきちんと把握した上で、無理のない範囲でトレンドを楽しむといった感覚に若者たちが変わってきたのかなと思いますね。
トレンドと自分を切りわけて考えるのが当たり前になっていて、「トレンドは自分を構成するものではなく、あくまでも社会との繋がり」といった距離の取り方をしているんです。
パーソナルカラーや骨格診断など、自分に似合うものを診断する仕組みはここ数年で一気に普及し、自分の体形や肌質などにマッチするかどうかを基準に買い物をする子が増えています。
崔:そうですね。実際、SNOWでもフィルターのパーソナライズ化がここ5年で定着しました。2015年にローンチした当初はみんなが同じフィルターを使って似たような写真を撮っていましたが、現在はフィルターを自分の顔や肌の特徴に合わせてカスタマイズするのが一般的です。こうした変化を受け、スタンプそのものも自分でカスタムできる機能を追加しました。

自分で作るスタンプはレイアウトや、大きさ、数をカスタマイズできる
長田:診断などによって自分に似合う商品を効率よく探し、失敗しない買い物をしたいという気持ちはもちろん、カスタマイズすることそのものにも楽しさがあるんでしょうね。
崔:そうですね。若者のあいだで「みんな違ってよくない?」「自分に合うものでいいんじゃない?」という風潮が生まれた際に、「合うもの」を自分で決めることに難しさを感じていた人もおそらくいたと思うんですよね。そのタイミングで、パーソナル診断といった仕組みが流行していったんだと思います。
「そのテイストが似合ってますよ」と言ってくれる客観的なオピニオンの存在が、自分の表現を正当化しやすくしている側面もあるのではないでしょうか。
長田:多くの人が発信をするようになったことで、一般の人も含め、自分らしさを重要視する考え方が広がっていますよね。コロナ禍のおうち時間で自分を見つめなおす時間が増えたことも大きく影響していると思います。
自分のことを知って、自分の強みを活かすために、カスタマイズが必要なんだと思います。