アイデアを生む「ヤフトピ」トレーニングとは?
田中:皆さんはPR領域において、どのようにアイデアを生んでいるのでしょうか。
太田:まずは生活者のインサイトを掘るところから始めます。自分では気づいていないけれど、「言われてみると確かにそうかもしれない」というポイントです。生活者はインサイトを突かれると、誰かに言いたくなったり、共感の声を上げやすくなったりします。深く掘っていった先にPRが自走し上手くいくコアアイデアが眠っていると考えています。
川上:私が大事にしていることは3つです。1つは「ニュースを作る」感覚で、情報発信を行うこと。たとえば、旬のニュースが一目でわかる「ヤフトピ」の掲載欄は13.5文字しかないのですが、まずはその文字数内で企画を考えます。限られた文字数の中で、どう書くかというところからバックキャストすると、良いアイデアが生まれてきます。実際に社内では、若手がこのトレーニングを行っていますが、すごく伸びますね。
2つめは、「双方向性」です。PRとは社会との継続的な会話だと思っています。なので、一発のPRではあまり効果がありません。ソーシャルでコミュニケーションを取り続けることでファンが広がり、ある日突然商品がヒットしたりするのです。
最後は、「企業キャラクターに反することをしない」ということです。ソーシャルグッドな取り組みを行う上では、これまでの行動と整合性が取れているかが大事だと思います。生活者は思った以上に、企業のことを良く見ていますから、客観性をもつことも必要ですね。
吉柳:当社は、PR事業部門だけで500人ほどの社員がいますが、教育を大事にしています。若手には、川上さんがお話していたヤフトピのトレーニングに加え、企業の商品を取り巻く環境にどのような社会的インサイト、時事的インサイトがあるかを考えてもらっています。PRは最終的に、ブランドとして唯一無二ものでなければ意味がありませんから、俯瞰できる力が必要ですね。
よりリアリティが求められていくPR
田中:最後に、PRの本質とは何か、皆さんの考えを教えてください。
川上:PRは今後ますます、企業と社会の双方向のコミュニケーションになっていくのではないでしょうか。「社会がこういう風に動いているから生活者としてはこういうリアクションをとろう、企業ではこうしよう」というコミュニケーションを楽しんだら良いと思います。
太田:実は、昨年もアドテックでPRのセッションに参加させていただいたのですが、その際に花王の廣澤さんが「PRがマーケティングになっていく」ということをお話されていました。私もそのような未来が来ていると思います。また廣澤さんの言葉をお借りすると、PRとは、自分たちにとって優位な競争環境を作っていくことです。自社が持っているブランドや商品のポテンシャルを、最大限に発揮できる足場、環境、味方作りこそがPRの本質ではないでしょうか。
吉柳:ここ数年の流れを見ていると、PRの本来の定義に戻ってきていると思います。PR、つまりパブリックリレーションズとは、メディアだけではなく、株主、社員、社会など、自分たちにとってのステークホルダーと、双方向に良質な関係を構築することです。それに加え、コロナ禍では、ブランドパーパスや社会性など企業の本質が重視されるようになりました。今後は、ストーリーやコピー作りにも、よりリアリティが求められていくのではないでしょうか。