「新規顧客」vs「ファン」 企業の逆境を支えるのは?
今回紹介する書籍は、『ファンベースなひとたち ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー』。著者は『ファンベース』(ちくま新書)の執筆者でファンベースカンパニー会長である佐藤尚之(さとなお)氏と、ファンベースカンパニー代表の津田匡保氏です。
「苦境に立たされたときこそ、真の友人がわかる」といった言葉がありますが、コロナ禍で改めて、顧客との関係構築やファンの重要性に気づいたマ―ケターは多いのではないでしょうか。そんな中、企業の逆境を支えてくれるのは、まだ見ぬ「新規顧客」ではなく、熱烈に愛してくれている「ファン」だと語る両氏。本書では、ファンに起点を置いてビジネスを推進していく「ファンベース」の考え方と実践例を解説しています。
「ファンベース」は顧客の囲い込みではない
さとなお氏の提唱する「ファンベース」とは、自社のサービスやブランドを愛してくれるファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売り上げや事業価値を高める考え方。ファンマーケティングやコミュニティービジネスにおいて陥りがちな、「顧客を囲い込もう」「ファンから儲けよう」といった発想とは異なるものだといいます。
ではなぜ今、ファンベースが大事なのか。さとなお氏は次の3つの理由を挙げています。ここでは、「1.売上」のみご紹介します。
今ファンベースが大事な理由
- 売上
- 時代
- 類友
ファンベースが大事な理由その1.売上
ある飲料メーカーでは、全体売上の8%を「コアファン」が占めており、1ヵ月の売上では全体の45%を占めているそうです。さらに、通常の「ファン」を合わせると、全体の約90%近い売上をファンが支えています。
この企業の場合、「新商品を飲んでみたい」と考えている層に、数億円かけてキャンペーンを打ったとしても、1ヵ月で見てみると、たった7.5%の売上にしかならないのです。
ファンベースでは、売上の大部分を支えてくれているファンに喜んでもらう施策を行うことで、売上の底上げを図ります。さとなお氏は「ファンベースはファンを新たに増やすことではない」と本書の中で述べていますが、ここが従来の考え方と大きく異なる点です。
本書ではこうしたファンベースの基本的な考え方に加え、カゴメ、読売巨人軍、ネスレ、ユーグレナ、Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)など、ロングセラーブランドを抱える企業からベンチャー企業に至るまで、ファンベース施策に取り組むビジネスパーソンたちが、どのような課題と向き合い、ファンと共に成長の道を歩んでいるのかを、漫画と対談でわかりやすく解説しています。
中でも印象的だったのは、ユーグレナの取締役副社長・永田暁彦氏の言葉。ファンベースにおいては長期的な視点が必要ですが、コロナ禍でそういった視野に立てる企業は少ない、といった文脈の中で、永田氏は次のように語っています。
「構造的に改革をする話と、短期的にコストカットをする話が混ざって論じられがちです。背に腹は代えられないという状況の中で、ファンを大切にする、あるいは組織や教育といった構造的な課題解決の優先度が下がってしまうのです。しかし、事業が上手くいっていないときにこそ、長期目線に立ち返ることができるかが、企業の分かれ目だと思います」(P.189より)
「自分たちの生活や未来に本当に必要な商品なのか、企業なのか」と、消費者はより本質的な部分を見るようになっています。これからの時代、ファンをないがしろにしたビジネスは立ち行かなくなるのではないでしょうか。ぜひ本書を通じて、ファンとの向き合い方から熱量の活かし方、ファンベースを社内に浸透させる方法まで、ヒントを得てみてください。