“お寿司作戦”も効果なし For You観点の大事さを実感
続いて栗原氏が提示したテーマは、施策やコンテンツを企画する上での失敗について。酒居氏は当時を振り返り、小手先の対応をしてしまっていたと話す。
たとえば、過去にオフラインセミナーを開催していたときは、いかにセミナー後に残留してもらって商談につなげられるかを意識し、いろいろな方法を試してみたそうだ。パンフレットを出入り口から離れた場所に置いて、取りに行ってもらう間にインサイドセールスがフォローに入ったり、懇親会で高級寿司を提供したりしたこともあったという。
「ただ途中でふと、僕ならこんなことをされても残らないと気づいたんです。お寿司がでてきても手をつけないだろうし、たとえ食べても話を聞く気にはならないなと。自分が残りたいと思うコンテンツが何なのかと考えたとき、話を聞いてすごく勉強になったなど、体験に尽きると思いました。そこで現在は、『For You』、相手の立場から見て価値があるかにこだわって発想するように変わっています」(酒居氏)
栗原氏もこれに賛同し、「自分がユーザー、見込み顧客の立場になって考えることが、そのコンテンツが『For Me』発想になっていないかに気づける方法なのかもしれません」とコメントした。
しかし顧客の求める情報と企業として伝えたい内容が合致する場合は良いが、必ずしもそうとは限らず、むしろ一致しないことのほうが多い。その際のバランスをどう工夫していくか。酒居氏は2つの方法を明かした。
1つは、マーケティングストーリーとカスタマーストーリーを一致させること。ここがずれているとユーザーに対して嘘をつくことになり、「For You」にはなりえない。だからこそ、顧客の体験の声をマーケティングストーリーへ落とし込むことを最初に行うのだと酒居氏は説明する。
ただそれだけでは、現状の顧客や顧客の課題感をフォローできても、自分たちのビジョンを伝え切ることができない。そこで2つ目として、市場や顧客に対してコンセプトを提示する「コンセプト・アウト」の発想を併用する必要がある。酒居氏が例に挙げたのがロゴやサイトなどのクリエイティブだ。
「かっこよさだけを追求するのではなく、自分たちのあるがままの姿を表現することが大事だと考えています。『FORCAS』は、サービスリリースから2年半が経過した頃にロゴデザインを一新したのですが、それには、ユーザーのみなさんと長期的な共創関係をつくりたいという想いのほか、初期と比べ成長した姿を体現したいという決意も込めていました」(酒居氏)
セントラル組織ならではの悩みも
栗原氏が最後の質問として、4事業のマーケを統括する責任者として、どんな点に困難を感じているかを聞いたところ、酒居氏は横串組織ならではの難しさを挙げた。
ユーザベースのマーケティング部門は昨年末に組織を統合し、プロダクトを横断的にみる統合型の組織となっている(図2)。その狙いは、非連続な成長を生み出して企業の成長スピードを加速させること、未来のマーケティングを自分たちでつくることだったという。特に後者について、「FORCAS」が「未来のマーケティングの共創」をビジョンに掲げていることからも、多くの企業が成功させたいと思いながら、いまだ好事例があまりない統合型マーケティングを体現できる新しいケースをつくることを目指した。

横串組織に再編成したことで、部間のつながりが強固になりノウハウもスムーズに共有されるようになった一方で、インサイドセールス以降の開発をはじめとしたプロダクトへの強度が弱くなってしまう側面もある。「横の強度(プロフェッショナル)の追求とプロダクトへの強度の併用と、組織としての紐づけ・コミュニケーションをどうするかは悩みながらやっています」と言う酒居氏。あわせて複数事業を1つのマーケティング組織で見ることで、それぞれのプロダクトや顧客理解が分散することも課題だと話す。
「そこで9月頃から、チーム編成を変えてプロダクト区切りにやってみています。せっかく横串で連携が生まれたので、ノウハウ共有の時間をつくってそのメリットは残しつつ、プロダクトやユーザーの理解を深める機会を増やしていきたいと考えています」(酒居氏)